02:女王のあさ

遠い遠い小さな国には、何か特別なものがあると昔から言われていました。それがなにか、と気になったところで大人たちは話しを切りやめてしまいます。


「女王さま、おはようございます」
「おはよう」
「今日の日程を、」
「ありがとうサクライ」
「いえ」


時に、お話の中で女王は悪になり得ます。それはきっと彼女も例外なくそうで、世にいう悪女でした。それゆえ彼女は殺されて、死んでいったのだとわたしは思うのです。それだから、死は仕方の無いことだと。


「〇〇さま、」
「なに?」
「顔色が悪いようですが」
「・・・少し良くない夢を見たの。だがそれほどじゃない」
「、そうですか」
「サクライは、よく分かるね」
「そりゃああなたのことですから」
「・・・サクライ、」


サクライは、呼び寄せると屈んでこちらに近づきます。そして足を差し出せば、ゆっくりと微笑んで足の甲に一つ、キスを落としました。その擽ったい感覚は嫌いではなく、まるで割れもののように扱うサクライの手がどうにも美しく妖しく見えて、感度を高ぶらせるのです。


「今日はコーヒーがいい」
「かしこまりました」
「あと、ヤスモトには今日はエッグマフィンがいいと伝えてくださる?」
「はい」


彼女は、母は、わたしを生んですぐに死にました。忌み嫌われた彼女と同じ血を流すわたしも、いずれ殺されてしまうのやもしれません。それなのに、どうしてわたしは今も生きているのか、たまに分からなくなってそれからサクライを見ます。そうするとサクライはいつだって、甘い声で大丈夫である、という趣旨のことを伝えてくれるから。