03:真似できない話し

鈴「頭いてえー、」
福「昨日飲みすぎてたからだろ」
鈴「だって、あのワイン知ってる?特産中の特産よ?」
柿「女王がわざわざ注文したやつ。おまえらなんかのために」
福「おまえらってなんだこら」
柿「まあ、本人が一番飲みたがってたんだろうけどねー」

この城の朝は、わりと騒がしい気がします。気の利くとはあまり言えない執事たちは、サクライのいないところではうだうだと井戸端会議なるものをしていることくらいわたしにだって分かるのです。サクライはわたしの手を取りながら、いつもエスコートをします。くっちゃべる執事たちに浅い溜息をつきながら、眼鏡の下の瞳は小馬鹿にしたような眼つきで、わたしはわりと嫌いではありません。

「・・・どうにかしてね」
櫻「はあ、」
「スズムラとジュンには、はやく報告書をまとめるように再度伝えてくださる?」
櫻「かしこまりました」

サクライの手はこれでもかというほど細くて、実際のところあまり頼りにはならないのですが、他の執事の誰よりも丁寧にわたしに触れるので好きなのです。その次はヤスモト。彼はほどよい肉つきもあって、わたしをいつも安心させるのが上手く、その手を離すのが惜しくなるほど。

中「おはよう女王」
「どうも」
中「今日のスケジュールをお伝えします」
「あら、今日はナカムラが?」
中「サクライは、門番のオノとシモノに用があるみたいで」
「そう、」
中「べつに俺でもいいでしょ」
「ええそうね、読み上げるだけの作業ですものあなたにも出来るはず」
中「・・・ちっ、」

ナカムラの考えていることは執事の中でいえば一番分かりません。仕事が出来ないわけでもないのでしょうが、面倒事に対する彼の消極的さといえば最悪で、重要な仕事を彼に任せたことは一度もないような気がします。スギタの面倒はよくみているようだけど。

「今日のランチは、ドイツのビールに合うものがいいとヤスモトに伝えて」
中「え、昼から飲むの?」
「ストレスフリーに生きたいの」
中「女王もストレスとか感じるのね」
「おかしい?」
中「いや、人間みたいでいいと思います」
「あら、お酒を飲めない人間のあなたがそんなこというのね」
中「その減らず口がなあ」
「馬の音がする、」
中「へ、」
「・・・キショーが戻った」
中「まじか」

遠くからこちらに向かう蹄の音は、たしかにキショーの馬のもので、窓から確認する間もなくサクライから予想どうりの連絡が来ました。ナカムラとのつまらない口遊びを止めて、早急に門を全開にすることと、カジに洗濯の用意と女中たちの人手の手配を要求します。荒れた戦であったらしいから盛大なもてなしで迎えたかったというのに、キショーはいつも間がよろしくない。

中「うわまじで帰ってきた」
「・・・おかえりなさい」
谷「・・・」
中「え、無言」
谷「・・〇〇の部屋、」
「、キ」

柿「え!なにキショー女王担いでるの?!」
鈴「・・・あーこれは、」
福「ちょいと、苦戦だったのかなあー」
鈴「まあ恒例っちゃ恒例だけど。今回は随分手荒だな」
柿「・・・まじで」

「キショー、」

わたしがこういうときに抵抗するのはあまり得策とはいえません。キショーの肩口からは煙草の香りと、その影から火薬の匂いがしました。すなわちそれは、彼が戦いから戻ったことの象徴であって、それは誰にも咎めることなどできないものであるから、わたしもとうの昔に騒ぎ立てるようなことは止めました。いつもキショーは、間が悪いのです。しかも彼は見た目以上に繊細。

「ずいぶんと、手荒ね」
谷「優しくしたくねーの」
「そう、」
谷「さっそく噛みついていい?」
「あなたが噛みつかなかったことなんて無かったわ」

金がかった髪の毛の下で笑ったキショーの顔は、寂しそうといえばそうで、だからわたしはその頬に手を伸ばしてしまうのでしょう。ベッドに着いた途端、キショーは噛み付くことなくわたしの唇に触れました。それからは、ただ男と女の世界へと展開しますから、もう語らうのはここら辺にしておきます。