04:つり合わない

夢などみたことがありませんでした。夢をもたなくとも、わたしの世界は不変でしたから、ただ並べられた現状に上手く応えるだけで、充分だったのです。でも人は、それを孤独ね、とただ憐れむような目で見るだけ。

谷「・・・起きた?」
「ええ、」
谷「なんか、うなされてたけど」
「いやな夢だったのね、きっと」
谷「俺が死ぬとか?」
「自惚れ」
谷「悪い?」

キショーがわたしに求めることは、ほかの人間にでもこなせる欲求なのでわたしの背負うリスクは低いといえます。反対に、わたしは自国のために戦って死ねとキショーに言っているのだから、あまりにも平衡していないでしょうに、キショーはそれでいいと言うのです。

「ヤスモトのランチが食べれなかった」
谷「あらーどんまい」
「あとで直接キッチンに行く」
谷「え、もう出ていくの?」
「今日は忙しいの。あなたばかりに時間は取れない」
谷「つれませんねー」
「つけ上がらないで。あなたはいち執事なのだから。あとでリョウヘイと任務報告に来て」
谷「、へいへい」
「・・・任務、お疲れさま」

キショーの気の抜けた返事を背後で聞きながら、ドレスに袖を通します。ドレスを着た時に、美しく思える日があれば息苦しいと思う日があります。それは、これに支配されているといえばそうだし、これに満たされてるとも言えたからです。今日は予定が散々に狂わされているので、ドレスを着けるのが憂鬱に感じますが。

この服1枚でわたしの階級は示されて、ひれ伏す誰かを見下ろすのがわたしの役目でした。だからこそ、やっぱりそこに夢など、滑稽過ぎる概念だったのです。

「あ、そう」
谷「ん?」
「今週末に、祝賀パーティがあるの。そこであなたを今回の功績を讃えようと思ってる」
谷「へえ、」
「準備しといて」
谷「・・・俺はべつに、女王サマのご褒美だけで十分だけど」
「、小さな人ね」

天才は孤独だといいます。 父と母を失くした途端に、わたしも孤独な娘だと言われました。可哀想だという意味合いもあったのでしょうか。ですが実際にはそんなことなどなく、そもそも父も母もただのお飾りに過ぎませんでしたから、わたしは歩むべき自分の道だけを来たのです。そこに父の偉業を継ぐなど、固い意思などはありませんでした。

谷「喜んでくれてもいいじゃん」
「わたしを誰だと思ってるの、」
谷「無気力で寂しげな女王様」
「・・・そう。自惚れなくせにガラスの心を持ったあなたに言われちゃおしまいね」

人は、誰にも理解されないところに置かれた状況を孤独といいます。でも、わたしは違いました。孤独など微塵も感じなませんでした。天才の感じる孤独という鬱々しいものは、何の役に立たない言い訳にしかわたしには聞こえません。

谷「わお辛辣う、」
「なんとでも言って」

孤独だと自らを責め続ける凡人は、あっけなく死にます。でも、孤独を唱えた天才たちは、追いかけた夢を最後に現実にするのです。だから凡人は天才に期待する。果てのないように思える夢さえ、天才たちの持つ技量はそれを超えてしまうのですから。

「、天才などいないのよ」
谷「・・・?」

わたしは孤独ではありません。しかし期待だけはそこらへんを歩いている人間よりも募っているのです。わたしは天才とはいえません。それでも、この国の女王は、わたししかいないのでしょう。だから、孤独を選ばなければならない。天才的なこの血を受け継ぐ者として、愚かな汚い夢ばかりを追わせられる。

「・・・ごきげんよう」

だから、キショーが求めるちっぽけな欲望に、なんとなく落ち着くのかも知れません。