夏蝉の生き方

「あついよー」
「あついねー、」
「今日の夜はそうめんだね」
「え、氷ないよ」
「んーじゃあ買って帰ろう」

櫻井さんの、なんてイメージが強かった名前。事務所の意向なのか、本人達の希望なのかはよく分からないが、現場で隣を埋め合うのはいつも2人で、そのわりには仲睦まじく話す様子もなく、初めは違和感のほうが強かったように思う。

「今日はさあ、じゅんじゅんおかしかったよね」
「あいつはいつもあんな感じじゃない?」
「えー、そうかなあ?」
「俺の中では、そんな感じよ」
「ダジャレはすごい、と思うけど」
「うん」
「なんか変人だよね」
「あら名前さん辛辣ですねー」

でも、その頃から困ったように笑うその顔が可愛いと思っていた。そんなことないよー、と語尾を伸ばすくせも相変わらずで、そのあとに眉を下げて笑う。ふわふわとしたイメージが良く似合うそんな人。それだから、俺の手のうちに置いておこうにも全然留めることができない、そんな彼女。

「俺もダジャレ考えてみよっかなあ」
「でぃーはおばかさんだから出来ないよ」
「ええ?」
「逆に出来ると思ったのがすごい」
「え、辛辣」
「仕方ないじゃん。でぃーですもの」
「俺ですもの、?」
「うんうんキミですもの」

立ち寄ったスーパーの中は冷房が効きすぎて皮膚がきゅっと締まる。寒がりの名前は大丈夫かと隣を見ると、平気そうな顔とは裏腹で腕に鳥肌を立てていて、どうしようもなく可愛いと思ってしまう、8月下旬の俺。

「寒い?」
「え、寒くないよ」
「うっそだあ俺も寒いもん」
「スーパーはこんなもんだし」
「お、強気じゃん」
「わたしですもの」
「そっかそっか、」

俺は名前が好きで、名前も俺が好き。それなのに、不安に駆られてしまうこんな感情は、湿った暑さが身体にまとわりつくような、あのどうしようもない感覚に似ている。好きだよ、とあの日返してくれた名前を俺は信じるしかない。ちらつく櫻井さんの影さえ、いちいち気にしてもどうしようもないことで。

「2人でそうめん食べるの初めてだね」
「ああ、そっかあ」
「初めての夏、ですね」
「そうですね」
「花火とか、見に行きたいなあなんつって」
「えーいいよー」
「え、まじで?」
「うん。行こうよ楽しそう」
「いえーい、やった」
「花火大会なんて、さっくんと行ったっきりだ」
「・・・そっかそっか」

過去は埋めれない。ましてや強引に今の彼女を束縛してしまうのも違う。分かっているのに、不意にかったるくなってしまうこの感覚はやっぱり、この夏の暑さにそっくりだった。

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