「・・・あつぅ」
「、そこのお嬢さん。誰かお探しですか?」
「?!で、ぃー!」
それでも後ろから風に運ばれてきたのは、聞きなれた声だった。振り向くとそこにはしてやった顔のでぃーがいた。こちらが驚かしてやりたかったのに、そんな顔をされてはなんだか気に食わない。
「え、!浴衣じゃん」
「そうですよーう。驚かしてやろうと思って」
「ええー、すっごい可愛い似合ってる」
「そうー?」
「うん。可愛い」
「ふふ。だってちゃんとヘアメイクまでしてもらったんだよ、」
「このデートのためだけに?」
「ためだけに、」
「・・・やっばいですわ、」
「でしょー?」
「い、や俺が」
「、は」
「すっげーうれしい」
珍しいな、と思った。でぃーはいい歳こいて本当に照れているようで、なんか気持ち悪いよと毒づいても、結局それは私の身の置き場をなくす。気付かれないために咄嗟に手を出した。早く連れていけ、と急かした合図をでぃーは徐ろに受け取って、指を絡めたあとに、どこにいこうかと私に問う。
「お祭りとかあんまり行かないから、分かんない」
「それ俺も」
「ひえー役立たず、」
「それはおたがい様でしょうが」
「こういう時は男のリードが命運を分けるっていうよ」
「ええー?そうかな」
「だよー。神谷さんならグイグイ引っ張るかも」
「そんなことはない、あの人は」
「む、」
「めんどくさがりそう」
「んーたしかに」
「あ、でも最後はリードするのかな」
「でしょー?」
蝉の五月蝿さが、今日は少し心地よかった。でぃーの声は全然違うヘルツで私のところまで届くし、祭り独特の空気に馴染めない私を引き戻すのはこの騒がしい合唱だったから。いつもと違う空気の中で、でぃーと蝉の声だけが安定している。
「まあ問題は、今から俺たちどうするかなんだけど」
「んー。とりあえず、ぶらりとする?」
「だね、まだ花火まで時間あるし」
「今日は、ノープランお祭りデートね」
「うん。そういうことだ」
「結局いつものわたしたちだね」
「まー俺たちだからね」
「そだね」
「多分俺たちだったら、そっちの方が楽しいよ」
「行き当たりばったりがー?」
「うん。だって俺と名前だもん」
「お?どういう意味だそれ」
「だって浴衣で来てくれただけでもう俺的にはこのあとの花火以上のもの見ちゃった感じだし、」
「・・・ほう。悪くない」
「えへ。あざす」
「花火より上に立ってるなら、気分はいいかな」
くだらない話しだって、でぃーとだったら少し本気にしちゃう。だってそういうのは恋人っていう、例えるなら花火よりも儚いものだからで、私がでぃーを愛する限り私はその言葉を肯定したがるんだもん。私達は絶対的に、脆くて特別なものが大好きなんだ。
「でぃー」
「ん・・・っ、え?」
「花火より綺麗な私からの、キス」
「・・・ごちそうさまです、」
驚いたあとで笑うでぃーの顔はかっこよかった。そうか、蝉もその類いか、なんて思い浮かんだあとで、さげた袋の中が少し震えた。どうせさっくんに浴衣姿を送ったものの返事だろうと思って、今は見るのをやめた。きっと、彼のことだから、そのまま家に来て見せて、なんて言うんだ。