碧蒼とした夜空の下

からっからに身体が渇くのに、ねっとりした風がわたしを包んでまるでこれじゃあ生き殺しのよう。

「でぃー、死ぬー」
「おれも死ぬー」
「えー?わたしを助けてくれないの?」
「助けてから、死ぬ」
「言いましたね?」
「いや、いやいやなんですかおんぶとか出来ませんよ??共倒れですよそんなの、おあ、まっ」

でぃーの背中は広い。首元の白さは少し不安にもなるけれど、それでもでぃーの背中は優しい。

「スタジオまで行っちゃってくださいー」
「名前、まじあついって」
「暑いしか言えない、これが夏に侵された人の末路」
「いや、さっきまで一緒に言ってたでしょうが」
「わたしは死にそうって言ってただけです」
「あー、一本取られたっ」
「言って昼間ほどの暑さじゃないし、いけるはず」
「え、そう言うなら歩いてよ」

ぶつぶつ文句をたれ流しながら、でぃーはわたしを背負って歩く。目と鼻の先にあるスタジオまでこんな格好の2人はきっとお馬鹿に映るんだろうけど、別に周りがどうとか、わたしには気にする対象ではなくて、そのでぃーの足取りのリズムや、もやついた夏の匂いと混じるでぃーの香りとかに、わたしの心は向き合いたいだけ。

「夏祭り、」
「?、うん」
「すっごく楽しかった」
「あー、だね」
「次の予定はないんですか?小野さん」
「えーつぎー?」
「あ、海とか」
「わ、海はちょっとおじさんにはハードル高いさすがに」
「ですよねー」
「・・・避暑地でBBQとかなら、」
「おお!」
「川のほとりで、お酒と果物冷やして」
「え、うっわ。でぃー天才?」
「そうでしょー元から天才なのよ、私」
「さすがっす」

夏祭りのあと、一方的に切られたさっくんの電話にもう一度かけ直して、繋がらなかったのでメールだけ返してそのまま家に戻った。三日後に会ったさっくんは実に飄々としていて、少しだけ心配したわたしがばかだったみたいに普通だった。「爪の色よく変わるな」とか揶揄う言葉を吐いて、穏やかな目元でわたしを見て薄く笑っていた。

「はい、着いた」
「はいお疲れ様でした」
「あーつかれた!」
「体力ついたね、きっと」
「そうでもないよ。うん」
「あーそういうこと言う」

少し、安心しているわたしがいた。元々彼は浮き沈みがある人だから、なにか不都合があったのかと心配した。それでも、一方的な振り回しは、あんまり好きじゃない。

「だって、ほんとーだもん」
「団長が聞いてあきれますわ」
「いや、あいつにはなれないっすわ」
「えー、わたしは誇りを持って調査兵団分隊長ですー」
「おお尊敬しますう」

でぃーはどうでもいい道草にも付き合ってくれるし、足りない言葉をいくつぶつけても全部聞き入れてわたしの相手をしてくれる。にかっと隣で笑ったでぃーは、夏が生む幻と同じ色のきらめきで、わたしにはもったいないくらいに、心を焦がす。

「・・・たまに、いけめんを出すよね。困る」
「え?」
「心がきゅってなるでしょ」

これじゃあ、いくら心臓があっても足りないよ。わたしは生きている限り、わたし以外の何かのせいで揺らいで蠢いて戸惑うんだ。好き嫌いに関わらず、一生かけて周りのものぜんぶに脅かされて、やがて死んじゃう。

「えー?何言ってんの」
「でぃー見るの控えよ」
「なんでよ。それいうなら俺、名前の何倍もきゅうって止まってるし。や、きゅうじゃないな、ぎゅんだ、ぎゅん」
「え。止まってるの」
「うん。祭りの時とか緊急停止もいいところよ」

ちょっぴり、でぃーの眩しさに目が細くなってしまった帰り道。もしかしたらあの日のさっくんも、とか都合のいい馬鹿げたことを考えた夏に焼けたわたしの思考。
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