04
月「あーぁ、もうなんで俺も」
木「仕方ねえだろうが!」
「ちょっとうるさい」
赤「紫那そっち危ない、レーダーあるから」
「あ、ごめん」
黒「相変わらず緊張感ねえな…、行くぞ」
夜は、彼らの戦闘着はスーツである。
漆黒の、闇の中によく溶け込む黒。
「全員って久しぶり?」
黒「んだな」
木「人数多いと楽しいなあ!」
月「…羨ましいほどの能天気」
カガワグループ取締役・カガワトシアキ。他同会社幹部の5名。年齢56、58歳あたり。日本有数の大手企業会社。5年前に脱税の疑いがあると噂されていたが、今となってはその噂もねじ伏せられている。確実に命を絶たせること、それから脱税についての書類の獲得。
本日の任務は骨が折れそうである。
彼らの任務が、常に人の目に触れられることはあってはならない。
▽▽▽
黒「この階だ、」
月「ここ、鍵しまってる」
赤「…ラム」
「まかせて」
リボルバーを2回。鍵穴に撃ち込むと鍵は役に立たずにはたはたとドアが開く。厳重なセキュリティもあっけない、そう思ったのはツッキーも同じようで後ろから鼻で笑う音が聞こえた。きっと、同様にあっけなく殺されるやつらのことも笑っているのかもしれない。なにしろ、彼は性格が悪い。
黒「さっすがあ」
「どうも」
木「てか銃声で気づかれたんじゃね」
黒「まあ…気づかれた方が楽しくね?お付きの奴らもいるだろうし、一気にサヨナラだな」
木「なにそれ楽しい!」
赤「面倒なので早く終わらせましょう」
月「右に同意、」
こんな時ばかり息の合う年上組に、冷静に意見する年下勢という構図は、どこか上手くいっているような気がする。わたしは都合の良い方にしか加勢をしないが。
ツッキーが相手の位置を把握し、攻撃しやすい位置を指示する。場所は会議室、ということしか知らない。
月「会議室の外に2人警備が付いてる。あと応接室に秘書とか世話係が5人ほど」
木「やっちゃっていいの?」
黒「関わった奴はサヨナラっていう依頼だからな」
赤「じゃあ、そこはラビとアイル。1人でお願いします」
月「えっ」
木「うふおお?アイルと俺2人いえーい!」
月「…ラビに大体動いてもらいますね」
「わたしもそっちがいい、」
赤「いや、ラムはコッチの先陣隊になってもらうから」
「なに、女を盾にする気?」
黒「まあまあ。盾っていうより槍だな」
腰に2つ、足元に1つ、つま先にナイフを1つ。徐ろに触れながら相棒であるそれらの場所を確認する。ずしっとくる重みに快感を感じたのはもう随分昔のことであって、いつの間にか私の一部に、それらはいる。
黒「…じゃあ行きますカ」
「ええ、」
扉に身体を寄せて構える。遠くにいる木兎と目が合うと、微かに口を引いて笑っていた。それは不敵だとでも言っているようで、纏わせた色気に思わず見入ってしまう。すると隣にいる赤葦が余所見しないと言わないばかりに銃でお腹をつつくので、仕方なく不服そうな顔をしてドアノブに手をかけた。先日に彼が言っていた本能に忠実とは、このことなのかも知れないとぼんやり片隅で思い出す。
「だ、だれだ?!」
「雇われの身です」
「なんだ、…」
ふくよかな男の人達が一斉にこちらを見て、とやかく言われる前に目の前にいる男を撃った。逃げようとして立ち上がった2人をも、隣から聞こえた銃声が制す。一寸の狂いもなく、1発で急所を抑える。言わずもがな彼らもプロだ。
「…かっこいい」
黒「そりゃあ、どうも」
奥にいた彼らに近づけば威勢よく、動くなと叫ばれる。牽制がここで効くことはないのに、煩わしく人は"生"を乞う。それでも心はぶれぬまま、銃砲は真っ直ぐ的を定めていた。
黒「カガワトシアキ、だよな?」
「お、おれじゃない!」
黒「ほお、てめえは違うのか。じゃあ必要ねえ」
大きな銃声の後に、人は人ではなくなる。死体を足で蹴って向こうに追いやる赤葦は、見た目のわりに冷たい男で、いつもお昼に彼目当てで来る女の子たちはこれを見れば震え上がるだろうと勝手に思う。それでも見られれば殺すだけなので、結果は見えているが。
赤「じゃあ、アンタ?」
「そ、そうだ!俺だ!」
赤「じゃあ、これ分かる?」
「な、なんだそれは…」
赤「ここまできてしらばっくれんなよ?おたく、やってたんでしょ?」
「そ、そそそれがなんだ!、?」
赤「やったことはどうでもいい、ただ書類だけはいただく。場所を言え」
冷たい目をして、赤葦が拳銃を男の口の中に入れる。引き金が下ろされると、途端に汗が吹き出て、目が血走る。最後に醜い姿を晒すなんて、人間とは穢い。死の瞬間に美しさなんて感じたことは、あの人くらいだと思う。
「…、え?」
その時、微かに動いた人影。反射するように思考より先に、身体は動く。
「う、後ろのデスクのささ、3段目…」
赤「…ですって、ラック」
黒「おお、あったぜー」
「ば、場所は言った…!だから、撃たな、っ」
赤「甘えはあの世で、どうぞ」
黒「…相変わらず、お前の殺り方かっこいいわ」
「ラック!!伏せて!」
赤葦が男を殺してすぐ。扉から見えた黒い影が、銃声を放った。被せるように打った手首に被弾して、ほこ先がわたしの肩をかすめる。がちゃっという金属的な音が聞こえて相手の手から拳銃が落ちた。相撃ちは私の勝ちだ。扉を蹴り開けた先には死んだ誰かの護衛であっただろう男が負傷した片手を庇い、対の片手で銃をこちらに向けていた。
「ちょっと遅かったみたいよ?」
「黙、れ。誰に頼まれた?」
「それは重要機密。でも、言ったところであなたも死ぬから意味無いけど」
「なっ!ふざけ」
「さよなら」
その1発は重く簡単に。こめかみをぶち抜くと白々しく相手は倒れた。どの死も醜い。汚くて赤黒くて、火薬と血腥さで溢れている。
黒「ラム!」
「わ、たしいなかったらラック死んでたよ」
赤「こいつどこから、」
「多分最初に銃声聞こえた時点で外部から誰かが呼んだのよ。もう意味ないけど、それも時間の問題ね」
月「警察きました。ひきます」
どれも好きになれない。身につけた武器と周りに囲む仲間の他に、私が信じるものはどこにもないのだ。風はまだ冷たく、傷口に少し染みた。
月「誰かが面白がって銃声とか鳴らすから」
「え、わたし?」
木「まあいい!こっちの方が楽しいいい!」
月「さっきからそればっかりですよ」
黒「おい、さっさといくぞ」
クロが予め用意していた裏通路から外に向かった。高層階から見下ろす町並みはキラキラ輝いていて、太陽と同様に私が好きになれないものでしかなくて。
赤「…血、」
「迂闊にかすめた」
赤「ごめん。後で手当てする」
「いい。軽いから」
赤「化膿したらどうするの。終わったら俺の部屋来て」
「、ありがと」
隣の赤葦は少し不機嫌そうだった。それから早く行くよと言って、ぶっきらぼうに手を引いてくる彼は私には優しいと思う。少し強く握ると、応えるように握り返されて任務直後に顔が綻ぶ自分がいた。
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