05


実に理不尽な人生だと思う。それは、わたしがというよりも私たちで、生温い風はいつまでも生温く、あの日の感覚を呼び起こす。

赤「…紫那、朝」
「…んぅ」
赤「そんな悩ましい声ださないで、」
「あかーし、の部屋だ…」
赤「俺、もうすぐカフェ行くよ?」
「えー…まだ、」

衣類を身につけようとしている赤葦の腕をむやみに掴む。少し困った顔をしてこちらに向き直す彼の身体は、細いくせに男の身体で、たまらなくなって照れる、なんてことはなくただ見入ってしまう。意識が一つ上をいっている彼は、毎週身体を鍛えるのを怠ってないらしい。

赤「…なに見てんの?」
「んー、いい身体だなって」
赤「、あっそ」
「背中が好きー、」
赤「…またシたくなった?」

たまに、その瞳が捕えたように見つめられる。それは何故か、子宮の辺りをきゅっと締め付けて、逸らせられなくなって、熱を帯びてしまうから少し苦手だった。

「ちが、」
赤「俺も紫那の背中好きだよ」
「え」
赤「白い肌が唆るし、」

赤葦の大きい指が内腿を這う。そのまま、一瞬触れるか触れないかでソコへ行くのを止めて、目を合わせてくるのが、もう焦らされているようで、また切なく中を締めてしまう。

赤「俺好みの腰のライン、」
「…ぅんっ、」

もう片方の手で腰から太股の辺りを擦られる。意識がそちらに逸れようとした瞬間に、撫でるように触れられる密部。わたしの一喜一憂全て知っているみたいに、どうしようもなく不敵に、一切の余裕を与えてくれない。

赤「感じるの早くない?」
「…京治の、いじわる」

名前で呼ぶのはわたしの足掻きだ。こんなにわたしを掻き乱す赤葦に、ちょっとした対抗。いつもより二割増しで開いた目に優越を感じつつ、くせっ毛な髪を行為中の時のように優しく掴む。そうすると、観念したかのように赤葦の顔が近づいてきて、キスをされる。いつものように、いや、いつもより強引に。

唇の生温さは生きている気がして好きだった。血が持つ生温さもなお、生を象徴するようで嫌いではなかった。

赤「…今日は怪我してるから休みでいいよ」
「うそ、!やったあ」
赤「黒尾さんには俺から言っとく」
「さすが赤葦。助かるう」
赤「…だからっていうのもアレだけど、」

身なりを整えた彼が立ち止まってこちらを見る。先程より距離はないというのに、身体がピリッと軽い電流を受けたみたいに、彼に捕らえられる。

赤「もっかい名前で呼んでよ 」
「…え、」
赤「はやく」

もう、夜の姿から完全に昼の姿になってしまった赤葦を、名前で呼んでしまうのは少しくすぐったかった。催促をされながら、依然逸らされない視線が恥ずかしくて魅力的で。

「け、…けいじ」
赤「はい、」
「仕事、がんばって。」
赤「 …ん、ごちそうさま」

不意をついたキス。優しいというよりも甘いキスが、離れてしまうことを拒んで、名残惜しくなる。 気づかれないように視線を外して俯くと、顎に沿って這わされる赤葦の手。触れられるところに、いちいち熱が集まって、ぞくぞくする。

赤「今日は昼かは木兎さんと代わるから」
「えほんと?」
赤「紫那が行きたいって言ってたビュッフェ、行く?」
「いきたい!」
赤「よし。じゃあ待ってて」

赤葦は多分、わたしの考えていることや、して欲しいこと全て見通してる。寂しいと思った一瞬は程遠いところへ行って、どの服を着ようだとか、どんな髪型にしようとか、女としての喜びを繕っていく。

「何着てほしい?」
赤「紫那なら何でもいい」
「、もう」

欲しい言葉を全部くれる。
お互いがお互いを都合よく消費している。
それなのに、こんなにも楽しいならいいのではないか。割り切った関係というより、切れない何かが働いていて、雁字搦めに私たちを縛っていく。
それは、赤葦以外の彼らにも同様に言えること、だが。


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