06


いつも疑心暗鬼だった。あなたは何をしたいのか、何に気持ちが向いているのか。尋ねても出る答えがあるわけでもなく、いつだって俺はただ、そばに居ることしかしなかった。うつらうつらと浮遊する彼女を見ている、それだけだった。

「どこ、いくんですか」
「ん?あ、ツッキーおはよう」
「ども」
「どう、これ似合う?」

多分蝶の様な人なんだと思う。身に纏う紫のドレスが彼女を煌めかせて、つい目で追ってしまう。ヒラヒラと舞うようにしながら、その全ては計算されて魅せるのが上手い。赤葦さん達が、毒を吐きながら結局のところ紫那さんにゾッコンで、それさえも彼女自身は知り得ているような、そんな気さえする。

「いいんじゃないですか」
「適当な答え」
「そもそもそっちが俺の質問答えてないし」
「え、ああどこ行くかって?潜入ですよ潜入、」
「…あっそ」
「聞いたくせにその答えはなくないカナ」

少し濃く描かれたアイラインが、強い彼女を象徴している。にやりと笑った顔は、どこか危うさを孕んでいる。二面性というのか。俺には多分 面倒な人なんだと思う。思うけれど、視界に入ってくるから、いつも厄介だった。

「一人で行くんですか」
「そうみたい、」
「頑張ってくださーい」
「ついてきてくれないの」
「俺には仕事が山ほどあるので」
「ソウ、デスカ」

一緒についていったところで俺は何になれるのか。せいぜい無茶なことをする彼女のストッパーをして、適当に守って、それはもう、俺じゃなくても誰かがすることで。俺が名乗りを上げて彼女の護衛をしたところで、あなたは俺だけに全てを委ねたりは決してしない。分かっているから面白くないというのに。なのに、多分俺は

「じゃあ、これ」
「?なに」
「試作品作ったんで、なんかあったら使って下さい」
「ええーツッキー来ないのお?」
黒「紫那まだいんのか?!間に合わねえぞ!!!」
「うげー、行きます行きますー」
「じゃあ、僕風呂入るんで」
「んじゃコレお守りね、」
「…勝手にそうしてください」

奪われている。心とか身体とかいう前に、瞳も意識も思考も、多分その先には彼女がいる。寄って集って馬鹿みたいで、頭の中はいつでも冷ややかだというのに、その冷ややかさを、彼女は簡単に打ち消す。小聡明い。でもそれ以上に綺麗だから仕方ないのか。





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