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年末は何処と無く皆せかせかとしているように思う。私はそれが少し苦手で、街の中を出歩くのを控えてしまう事が多かった。

岩「…おー珍しい」
「あら、岩ちゃん」
岩「及川みたいな呼び方やめ」

誰もいない学校は多分どこよりも静かで、耳につけていたイヤホンからの音漏れが聞こえるんじゃないかと思って音楽を止めた。そうか、一は部活だ。シャワーを浴びてさっぱりしたように見える様子から、簡単にそれは予想がつく。

「部活お疲れ様です」
岩「どうも。で、なんできてんの?」
「えっと、職員だから?」
岩「…なんちゃって職員な」
「言い返せませーん」
岩「自業自得だ」

一の私服姿を見るのは久しぶりのような気がする。相変わらず男気が滲み出ている風貌は惚れ惚れするが、当の本人は疲れきっているようだった。コーヒーを作ると一はどうも、と礼を言ってマグカップに口付けた。

岩「なんか、元気ない?」
「え、わかる?」
岩「まあ何となく」
「さすが一。お嫁にもらってください」
岩「俺はゴメンだな」
「なによイケズ」

最近は何故か気が重くなることが増えた。それ故か、行為に及ぶことも控えるようになった。きらきらとしている自分と、今の自分になんとなく距離を感じて、思い描いた現在との差に胸がぐらぐらと騒ぎ出すのだ。何してるんだろう自分。と、問いかけたところでどこにも答えは返ってこないのに。

岩「お前さ、結局どうすんの」
「え?」
岩「やっぱ松川とか?…あ、でも黒尾とか及川もいんのか」
「あー選ぼうと思ったことない、かも」
岩「…男共も報われないな」
「にしても、徹はないかな」
岩「あ、やっぱり?」
「ごめんね幼馴染みのところ」
岩「いや気にしないむしろ清々しい」
「、徹よりも貴大かな」
岩「男の名前が尽きませんなあ」
「もうお陰様で、」

特定の誰かを作るのはそれが足枷になりそうで怖かった。それに相手から好意があることはなんとなく気付くのだけれど、応えれるだけ見合った自分ではない気がして、ちょっとした逃げ道みたいにそういう関係で縛りをつけていた。その内小聡明くて卑しい自分も嫌になる時は来て、一人寂しく死んでいくんだろうなんて思う。幸せとは?なんて哲学的に思考を廻らしたところで、思い思いに人が答えを出していくのとなんら一緒の話で、私はとんでもなくどうしようもない女なのだ。

岩「まああれだよ」
「ん?」
岩「考え込むのはよくねえ」
「そ、そう?」
岩「てか調子狂うからやめろ、」
「え」
岩「らしくねえ」

一は、いつもより優しい声色で私に諭してるようだった。それから一は私の頭に手を伸ばしてぶっきらぼうに撫でてくれた。これじゃあ私も生徒みたいだ。だけどその手は心地よくて、背負い込んでいた気苦労が軽くなった、気がする。

「じゃあ付き合って」
岩「は?」
「これから暇なの。飲み位付き合ってくれる?」
岩「…へいへい」

私は私らしくしか、生きられないから。



寂しいお別れよりも先に




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