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黒「お前歩くの早い」
「早くないし鉄朗がまどろっこしいだけで、」
黒「荷物が多すぎるんだよおめーの!」

緑赤青紫桃白黄黒。ロングショートミディアム。スカートデニムパンツガウチョタイツ。目がくらくらするほど街は色彩と形式と個性に包まれて、ついつい人ごみの外へ行く方を選んでしまう。それでもどんな人ごみの中でも鉄朗の高い背丈は、一つの目印として私を守ってくれていた。

「鉄朗が荷物持つって言ったんじゃん」
黒「そりゃ持つわ!女に荷物持たせる男はいねえ」
「うわあ彼氏みたいいー」
黒「…んだよ悪りいか!」

頬が少し赤くなって、ちょっとだけ可愛いと思った。鉄朗の両手には馬鹿みたいにショッピングバッグが嵩張っていて、ごめんね?と言うと、気にすんなと素っ気なく返されて彼は前を向いていた。目も合わせてくれない、いや目も合わせれないほど照れているのか。

「昼ごはんは?」
黒「あー…どこでもいい」
「んーじゃあそこのカフェでいい」
黒「ん」

デートみたい、と思って言うのをやめた。なんでもない休日。肩を並べて歩くのはよくある事だけれど、今日はなんだか違うような気がする。鉄朗はいつもの3割増しでかっこよくて、1月にしては今日だけ暖かくて、新調した私のコートは良く似合っていて、偶然なのかは分からないけれど、まるでそれは何かの門出みたいに上手く出来ている気がしていた。

「なんか、どうしたの」
黒「あ?」
「今日、なんか違う」
黒「んー…そうか」
「うん」
黒「それ、聞く?」
「うん聞く」
黒「言おうか」
「え、なに」
黒「俺、お前が好きだわ」

カフェに並ぶ道の手前。信号待ちのありふれた平凡な日常。何にも違うものはなかった。それでも鉄朗は珍しく照れ臭そうにして私をちらりとみて、足元を見た。突然だね、と言ってみる。だけど、よく考えてみると色々と合点がいくことが多くて、そうでもないなと冷静なことを思う。

黒「そうか?」
「…やっぱりそうでもないね」
黒「だろ?」
「でも、どうして」
黒「どうして?んーわかんないけど、」
「けど?」
黒「単純に、付き合いたいと思っただけ」

思った以上にストレートで、信号が青に変わるのがいつもの2倍位あっという間に感じた。やっぱり突然だと思いながら、考えるようにして空を見ると烏が上を飛んでいて、暗示のような感覚だった。もう、いいんじゃない。そう言っているような気が、するようなしないような。

「私、多分面倒臭いよ?」
黒「知ってる」
「飽きっぽいし、適当だし」
黒「うん」
「…それでもいいなら、考える」
黒「そんなこと始めから承知だわ」

彼はずっと私のそばにいた。順序は全然違って身体はもう結ばれていて、唇の感覚だって昨日確かめあったばっかりで、それこそこうやってカップルみたいなことを繰り返していて今更何が変わるんだろうと思った。それでも、鉄朗は私が好きだと言って、付き合いたいと言う。
私にもうよそ見するな、と言ってるみたいに。

「へ、返事は後日でいいですか」
黒「いつでもどーぞ?」
「はい」
黒「でも早いほうがいい」
「分かった」

ドキドキと言うよりピリピリした。心が、全身が?色んな人の顔が浮かんで、浮かび過ぎてかき消すようにヒールを鳴らすことで誤魔化してしまった。




雁字搦めの愛だっていい




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