「また来てくれたの」
二「何その言い方」
「びっくりしてるの」
二「来てあげましたよー暇そうにしてそうだから」
「さすが二口くん、よく分かってる」
二「起き上がんなくていいから。俺がそっち行く」
「…ありがと、」
でも、苦しくなる。二口と話して連絡を取って、それでも私が知らない二口は何を考えているんだろうって率直に思う。私は病室から鳥を眺めて、天井とお見合いをして、太い注射に吐き気を覚えていることしかしてなくて、心がどんどん塞がっていくのが分かるから、そんな私に二口を縛らせたくはないと強く願う。
二「これ、」
「なにこれ」
二「見たいって言ってた雑誌買ってきた」
「待ってこれさ買うの恥ずかしくなかった?」
二「変な目では見られた」
「だってファッション誌だもんね」
二「うっせえありがく見ろ」
「はいはいありがとおー」
どきどきと不規則な動きを心臓がする。ありがとう二口、って最近言い過ぎている気がする。二口はというとその言葉を言うと照れ臭げに俯いて、おう、とだけ返す。その時に、心臓が音を立てるの。無理をして私もあなたもぎこちなくなって、やっぱり苦しくなる。素直に言うようになったのは命が擦り切れてしまいそうだから?最後なんて考えたくないのに、終わりを予測しながらあなたの名前を呼ぶのも、感謝をするのも、滑稽でどうしようもなく虚しい。
二「ずっと何してんの」
「えーつむつむしてー看護師さんとお話してーセンパイと喋ってー」
二「センパイ?」
「うんセンパイ。小学2年生のカケルくん。入院歴が私よりずっと長くて色んな事教えてくれるからセンパイって呼んでる」
二「なにそれ、」
「センパイから教えてもらったんだよ一階の購買のおばさんはかつらだってこととか」
二「え、まじで」
「まじ。最近の子はませてるから何でも知ってる」
私は、生きるっていうのは何にも気づかずにのうのうと出来ることだと思う。死ぬって分かった瞬間から、色んなものが見えるようになった。心のさざ波が細かく細かくなって、みんなの優しさとか親切とかに過敏になって、気が滅入っていく。歩く先だってどこも真っ白で、特有の匂いがずっと鼻から出ていかなくて、よそ見をさせてくれないの。
「テストじゃない?もうすぐ」
二「うん」
「ここにいていーの」
二「いーの、」
「馬鹿なくせに」
二「おまえもだろ」
「うっせ。でも、ほんとに」
二「気にすんな俺がここに居た方が都合がいいだけ」
私の隣にある花だってもう枯れちゃってるの。時間はどんどん過ぎて、用意されてる終わりに向かって私は今生きていて、じゃあ私はどうしたらいいの。二口はそばにいたいと言った。それは割と私の中ですべて打ち壊していって、思わず鼻の奥をつんとさせる。
「二口それなんか、ずるい…」
二「…だって、本当だし」
「じゃあもう少し、っね」
二口がよく見えない。どうせ死んじゃうんだから、二口の前くらいずっと笑顔の可愛い私でいたい。ふんわりと、二口の筋肉質な腕が私を包み込んだ。病院臭くなくて、すごく落ち着く匂いだった。生きている人の匂いだと思った。
二「泣くなよ」
「む、むり…っ!」
二「…、」
もう少しが積み重なった先で、私は死ぬ。二口を感じてドキドキするこの心臓だって、もうすぐ止まっちゃうんだ。