体育のしらべ
木曜の夜八時。練習終わりの部室。

東「、あれ」
新「?どうかしたか、尽八」
東「今日の体育でやってたダンスがどうしても思い出せなくてな、」
泉「へえ、東堂さんたちダンスしてるんすか」
東「そうだ。フクと隼人と荒北と4人でやっているのだが・・・俺の考えたはずの振り付けがどうも出てこない」
新「俺たちのダンスは、尽八がほとんど構成つくってるからなあ。おめさんが分からないなら、俺たちは出てこないな。なあ寿一?」
福「?そんなことより早く着替えろ。風邪をひくぞ」
荒「フクちゃん、話絶対聞いてないヨ」

ハードな練習が終わった後の部室は、大方みな疲れきって静かだ。その雰囲気を壊すのは大抵こいつらで、隣で騒がれているこちらの身にもなれと思う。帰りはベプシを飲もう。奢ると言っていたなまえも連れて、今日は絶対奢らせてやる。

荒「なぁなまえ」
「んー?」
荒「いまからなんかあるー?、」
「いやあ、とくに」
荒「んじゃ帰り付き合ってネ」
「?いいよー」
東「おい荒北!今からダンスするから付き合ってくれ!」
荒「はぁ?!いまから?!」
新「今から踊るってさ。復習ついでに俺達も付き合おうぜ」
荒「ヤだ。俺は疲れたから帰る」
東「ならんよ荒北!4人で踊らなければこのダンスは完成しない!」
荒「知るか!」
「え、踊るの?見たい」
東「おー見たいかなまえ。いいぞギャラリーは多い方が燃えるからな」
荒「ッセ!!話を進めんな!」

それまで手際よく片付けを進めていたなまえの手が止まる。間が完全に悪い。こんな意味不明なタイミングでダンス披露なんざごめんだ。だが、いつの間にかやる気になっているらしい新開は簡単にフクちゃんまで味方につけてしまっていて、あきらかに俺の逃げ場はどんどんなくなる。

「えーいいじゃん荒北、」
荒「いやだっつーの!」
「 空 気 読 ん で 」
泉「・・・!(なまえさんの十八番、絶対零度の笑顔だ!!)」

なぜこの部内の空気を牛耳っているのがこいつなのか。気に食わないことに気に食わないことが重なりすぎて、抜け出せなくなった。知らんぷりを決めていた黒田たちまでそわそわとこちらに近づき出していて、仲良しクラブかと呆れため息が出る。

荒「んでこうなるんだよー・・・クソ」
福「荒北、諦めも肝心だ。」
荒「うっせェ!大体早々から流されてんじゃねえよフクちゃん!」
「泉田、ちゃんと動画撮っといてね」
泉「、分かりましたなまえさん!」
新「こんなに見られるなんて、ちょっと照れるな」
荒「こうなるって分かってただろーが新開!」
東「なまえ!その目に焼き付けておけよ。このスリーピング・ビューティの美しい舞を!」
「きゃーとうどうくうんーいつもの指さすやつやってえー」
東「はっ!」
「はあい。じゃあお願いしますー」

後輩のやつらはさておき、なまえは絶対この状況を面白がっている。躊躇なく流された音楽。それに合わせるぎこちない動き。それさえ混じれば、案の定部室に響くのは押し殺された笑い声で、苛立ちは増す。しばく。1人ずついつか事故れ。

「フク、それダンスなの・・・?あと荒北やる気無さすぎ」
荒「うるせぇこんなとこで本気出して踊るかよ!あとフクちゃんのダンスには触れんな」
東「どうだったかなまえ?この山神のダンスは!」
真「すごかったですよー東堂さんー!」
東「な!真波!おまえには聞いとらんぞ!」
葦「ユキちゃん、俺達も来年こんなことしなきゃいけないのかなあ・・・?」
黒「こんなことって言うな葦木場」
「やあー面白かった。よし、みんな帰ろ」
荒「なんだこの茶番」

なまえの声で、一瞬の集団はやがてまばらに散っていく。ただの罰ゲームだった。泉田に撮ってもらった動画にご満悦ななまえは、めずらしく嬉しそうな顔をしていてなんだかざらついた心が邪魔をする。べつにその顔は今しなくてもいいだろうと咎めつつ、さきほどまでの苛立ちが薄まっていくのはなんだか面白くない。

「・・・?どうかした」
荒「なんでもねえ、てか見てんじゃねえ」
「は?」
荒「、うしじゃあなまえそろそろ行」
東「なまえー!巻ちゃんに写真送るから一緒に写真撮ってくれないか?」
福「なまえ、明日のスケジュールで打ち合わせておきたいことがある」
銅「なまえさん!週末の買い出しの確認なんですけど、」
「、あら」
新「ヒュウ、大人気だなあなまえ」

連れて出ようとしたのも束の間。あわあわとなまえは一瞬で部員に囲まれ出す。握っていたバッグを、ベンチの上にまた置いた。それから、ごめん荒北、と口パクで俺にだけ伝えると、なまえは福チャンと部室から出ていってしまった。

新「行っちまったな」
荒「、ああ・・・」
東「・・・仕方ない。今日のところは隼人と荒北とのスリーショットで巻ちゃんに我慢してもらおう」
荒「いやだ」

良くあることだ。それこそなまえは仕事が出来るやつなので、部活内では重宝されている。

荒「・・・、チッ」
新「残念だったな?靖友」
荒「はァ?!うっせェ!」

わざとらしく話し掛ける新開はウザすぎる。別に一人で帰ったって特に困るわけでもないのだが、狂ってしまった予定に舌打ちが出た。それが落胆なのか何なのかは、絶対に言わないが。

4人で創作ダンスしてたら東堂メインのダンス構成が組まれてそうだなあとなんとなく思って書きました。見てみたい4人のダンス・・・

あじさい