なまえという人
どこか掴みづらい、言ってみればそんな人のように思う。
「あれ?みんなもう帰ったの?」
黒「あ、なまえさん。先輩達はなんか見たい番組があるって、今日はみんなそそくさと帰ってましたけど」
「ええーフクまで?」
黒「福富さんは自主練です」
「あ、よかった安定の」
ドリンクの容器を洗い終えたらしいなまえさんは、にしても早すぎる帰宅をした荒北さんたちのことをボヤいている。確かに今日は珍しく、いつもならむさ苦しい練習後の空気はなく、ここには俺となまえさんの2人しかいない。
「オアシスはフクちゃんだけだ本当に」
黒「オアシス、」
「あ、黒田も十分オアシスだよ」
黒「?うっす」
「葦木場拓斗に関してはもう妖精レベル」
黒「よ、妖精?てかなんで葦木場はフルネームなんですか」
「あれ?なんでだろう、」
あは、と気の抜けた笑い声を出したなまえさん。何気なくまとめていた髪を解くその顔は、普通にきれいな人だなと思う。読めない人だ。妙な壁を作らないタイプというか、フランクとも言い難い彼女とは喋るたびに少しドキリとする。それでもほかの女に比べると随分喋りやすいのだが、下手に話しているといつの間にかなまえさんの手のひらに乗せられそうで、つい身構えている。
黒「はあ・・・変わってますよねなまえさん」
「え、うそ」
黒「俺にはそう見えます」
「そうかな?なんか黒田に言われると、」
黒「え、いや悪い意味じゃないっすよ?」
「ん?じゃあどういう意味」
黒「なんかこう、読めないっていうかなんつーか」
「え不思議ちゃんに見える?真波みたいな?、」
黒「真波じゃないっすけど・・・」
「だよね、真波っぽかったらちょっとやばいやばい」
黒「はあ、」
「読めないかー・・黒田は分かりやすい女の子の方がいい?」
黒「え。いやそんなわけじゃ」
俺に目を合わせると薄らと笑ったなまえさんに、なんだかぞくりとした。背筋に汗が伝わる感覚が妙にリアルなのは、部室に俺となまえさんの2人きりで、俺が変な気を起こしているからなのだろうか。
「じゃあ、問題ないね」
黒「なにが、っすか?」
「ん?こっちの話し」
黒「・・・え」
福「まだ残ってたのか。なまえ、黒田」
「わ、おつかれーフク。ドリンクの余りあるけど飲む?」
福「ああ、助かる」
黒「・・・(なんなんだ)」
なまえさんの言葉の意味は結局よく分からなかった。福富さんが戻ってきたところで話しは綺麗に途切れて、さっきまでの変な雰囲気は呆気なく終わる。
「・・・じゃあ、さっきのはなしはまた今度ね」
黒「えっ、あ、はい」
福「?なんの話だ?」
「あー秘密の話し。黒田とわたしの、」
福「・・・、そうか」
黒「いや、なんもないっすよ?!」
何を否定してんだ俺。お疲れ様ですと挨拶をして、返事も聞かず足早に部室を出た。心臓に悪い。なまえさんはやっぱり分かりずらい。
福「あんまり黒田をいじめてやるなよ」
「なにそれ。いじめてないナイ」