人にこんなに押されるのは初めてだ。いろんな人にぶつかっては前に進まないこの現状、はっきり言ってやばい。
「おい上鳴・・・あれ」
「?っ、知多か?!」
切島と出口へ急ぐ道の中で、少し前の右側に、ふらふらと見えたり隠れたりする影。初めて見る姿ではなかった。一瞬見えた横顔は、いつもの澄ました顔とはちがって随分と苦しげに見える。無意識に足が進んだ。人混みをかき分けて、必死に知多の影を追う。
「おい!知多!大丈夫か?」
「か、上鳴・・・?」
「おまえ、すっげえ顔色悪いじゃんかよ!」
「人に酔った、みたい」
「とりあえず端によるぞ。俺と切島で支えるからな!」
「おう!寄りかかれ!知多」
「・・・ごめん、」
腕を掴んでこちらに傾けさせると、案外身体は簡単に倒れた。予想以上の軽さにびびる。それから腕を回したその腰の細さに驚いた。女ってこんなもんなのだろうか。
「おまえ・・・ちゃんと食ってんのか?」
「同感だ。軽すぎだぜ」
「食べてるよ、・・・ねえ警報の原因って」
「ああ、これはただマスコミが押し掛けてきただけっぽいぞ」
「え、・・・?」
「外見たら分かるぜ。なのにこの騒ぎだ。俺らもずっと呼び掛けてんだが、パニックになってて収拾がつかねえ」
敵の襲来でも、悪意のある侵入者が乗り込んできたわけでもない。しかし騒ぎは一向に収まろうとしない。壁に寄りかからせた知多は、しんどそうに息を吸いながらこの状況の発端に呆れているようだった。
「どうにか皆の精神をコントロールできたらいいんだけど・・・」
「無理はすんなよ。この人混みじゃ危険すぎる」
「第一、そんな状態で個性使えんのかよ」
「分からないけど、このままはいやだ」
「そりゃそうだけどよー・・・っ!」
「わ、」
「っ、わりい急に押された、大丈夫か?知多」
「うん、ごめんなさい・・・支えてもらって」
「いやそれは、いいんだけど・・・よ、」
不意に背中を押されて、壁側にいる知多に寄りかかる形になってしまった。膝と腕で知多が潰れないように支えながら顔を上げると、思いのほか近いところに知多の顔があった。
「わ、わりぃ」
「?なにが」
「いや、その、あの」
「(上鳴の顔が赤い・・・)」
白い肌に黒々としたまつ毛が映えている。細い髪の毛からはいい匂いがして、むさ苦しいこの人集りのなかでもダイレクトで俺にまで伝わってくる。非常事態、である。こんなに顔を近づけても慌てることもなく俺を見つめ返す知多の瞳に、目がそらせない。
「だいじょーーーーーーーぶっ!」
「?!飯田!」
「・・・なに、あれ」
「インパクトでけえな・・・」
突き抜けるような飯田の大声で、うごめいていた人混みが動きをやめた。そのタイミングでことの事実を話した飯田の活躍のおかげでパニックがおさまる。俺に掛かっていた重さもなくなり、知多との密着した状態から解放された。
「飯田かっけえーな!!」
「ありがとう上鳴、切島。助かった」
「おう!クラスメイトも助けられなきゃ、ヒーローじゃねえからな!」
「・・・知多」
「ん?」
「おまえのこと、紫那って呼んでもいいか?」
「え。ああ、いいけど」
「っし。俺は、上鳴でもなんでも好きに呼んでくれて構わねえからよ」
「急ね、?まあいいけれど」
触れた肌、見つめた瞳。さっきの一瞬の出来事が全部フラッシュバックしていた。初めて会った時から、いいなとは思っていたが───やばい。これは多分おちたやつ、である。
「まじか?!じゃあおれも紫那って呼ぶわ!」
「自由に呼んでくれてかまわない」
「おれも好きに呼んでくれ!改めてよろしくな」
「うん」
「・・・」
どうやらそれは俺だけのようだが、