「保健室、寄らんでいい?紫那ちゃん」
「うん。だいぶ気分も良くなったし大丈夫。心配かけてごめんなさい」
「謝らんでええよ!全然!個性の都合やもん仕方ないし!」
もっと鍛えなきゃな、と反省しながら、破壊された外のセキュリティを見下ろす。3年生が今まで1度もなかった、と話していたのを思い出す。あんなに派手に壊されてしまうとは、マスメディアのオールマイトへの熱量は相当なのだろうか。
「じゃあ、私帰るね」
「あ、うん!気を付けなあかんよ!ばいばい!」
「うんばいばい」
ぶんぶんと音が聞こえそうなほど手を振るお茶子ちゃんはとっても無邪気で可愛い。思わず笑みがこぼれてしまうのは、仕方がないことだと思う。
委員長決めは、結局緑谷の推薦もあり、飯田に決まった。今日のパニックの収集の付け方は確かにすごかったし、真面目で曲がっていない飯田が委員長をするのは全く差支えのないことだった。隣に立っていた百ちゃんの何とも言えない表情には同情したが。
「・・・あ」
「、?」
「初めまして、知多紫那さん」
「え?(何で名前・・・)」
「ちょっと時間ある?立ち話もなんだし、ゆっくり喋ろうや」
「ちょっとあなた、だれ・・・?」
自宅までもう半分、といったところだった。身体中に手をつけた男。異様な雰囲気を纏っている。歪んた口元が、こちらに微笑むような形をして私の名前を呼んだ。やがて神経質に掴まれた右腕は、丁寧に指先のみで、何故か4本指しかわたしに触れることは無かった。
「ああ、失礼。まずは俺が名乗らなきゃいけないよね。マナーだ」
「・・・」
「死柄木弔。おまえに話があってきた、紫那」
「どうして、名前を」
「個性・思考操作。思考を読み、願望や欲望を奪う」
「、っ!」
「単刀直入に言う・・・紫那、おまえヒーローに向いてない。その力は、壊す方の力だ」
「・・・何、急に?変質者だって、警察呼ぶわよ」
「まぁまぁ、話聞けって」
掴まれた指先に力が込められる。戦闘訓練の時に負傷した右腕を強く掴まれて痛みが走る。情報があまりにも一方的すぎて対応ができない。不気味な口元の動きと話し方からして、相当イッてる人間であることは分かるが、思考を読み取ろうにも、顔に被さる手のせいで表情全体が掴めず、深い心理までは読み込めなかった。分かったのは"破壊"と"承認欲求"、それに少しの"快楽"。
「小さい時にその個性を恐れられ親に捨てられる。そして同じ理由で親戚からも煙たがられ現在は警察の保護下で1人暮らし。」
「よく知ってるわね。プライバシーもあったもんじゃない」
「・・・似てるなァ、俺に」
「、はあ?」
「受け入れられなかった。1番大切にされるべき存在から、否定された。俺もだ」
「・・・そう。それで?なに。私に同情でもしているの」
「違うよ。誘いに来たんだ」
「なにを」
「俺はヴィラン連合のトップ・・・このヒーロー社会を壊す」
「なにを、言ってるの」
「紫那、お前はなぜヒーローを目指す?その奪うばかりの個性を使って、なにになりたい?」
死柄木弔は自身の目元を手で覆いながらも、たしかに私の表情を伺いながら話しを続けていた。なにを目指す。死柄木はそう問いながら私を掴む力を強めた。いよいよ、苦しい。助けを呼ぼうにも、周りに誰も人はおらず、乾いた風が私の肌を撫でるだけ。
「私がヒーローを目指すのは・・・私の力で私を証明したいから。」
「・・・へえ、」
「この個性はたしかに人から思考を奪うし、使い方次第では人そのものを壊せる。でもそれがあなた側につく理由にはならない。だから、離して」
「へえ、断るんだ」
「・・こんな個性だって、必要とあらば使えることも、あるかもしれない」
「・・・あっそ」
「分かったなら、手を離し」
「僕はきみの力が必要だと言ってるのに、それは断るんだあ?」
「話し、聞いてますか?」
「必要とされるところに力を貸すんだろう?お前の力が必要だ。紫那が、欲しい」
「っ、・・・狂ってるってよく言われませんか?」
「あぁ、たまーに、言われたりするなあ」
「だから、私は断ると・・・!」
「何してんだおめぇら」
「!、・・・あなた、」
このまま埒が明かない。そう思っていたところに届いた声は、初めてではない聞いたことのある声だった。あのツンツン頭───爆豪が、鋭い目をしてこちらを窺う。この状況を見て、個性が発動できる体勢に構える爆豪は、どうやらまあまあ頭は切れるようだ。
「あぁ?お友達かな?」
「あ?ちげーわ。ただてめぇらがなにしてんのか聞いてんだよ。答えろや」
「別に怪しいことはしてない。彼女を勧誘していただけだ」
「・・・離して」
「はっ。まあ時間はまだあるしな。今日のとこはこれでやめるよ・・・黒霧、ワープ」
「ちょっと待って・・・死柄木!」
「また誘いに来るよ、じゃあ・・・紫那」
一瞬、私から手を離したと同時に、死柄木は黒い霧の中に包まれて姿を消した。静けさを取り戻す一帯。居心地のよい温度を運ぶ春の風が、私の精神状態など構わず身体に触れる。
「てめぇ、なんだ今の・・・!」
「・・・分からない。ヴィラン連合って、名乗ってた」
「は?」
「びっくり、した・・・」
足の力が抜ける。その場にへたりこんでしまった。ランチラッシュでの一幕のせいで、あまり自分の精神状態が優れない。相手の圧が強くて、個性を発動するのが遅れてしまった。
「なにヘタっとんだ説明しろ!!」
「あなたがきてくれて助かった、」
「はぁ?」
「ありがとう、爆豪」
「なんだよ!説明しやがれ!」
「説明したいけど、いまはできない。とりあえず、」
「?」
「帰りましょう。お礼はいつかする。だから、今日は帰ろう。疲れた」
「別に礼が欲しいわけじゃねぇわ。つかなんもしてねぇよ俺はよォ」
「・・・とても申し訳ないんだけど、手、かしてくれる?」
「・・・立てねぇのかよ、ダセェ」
すんなりと伸びてきた手を掴むと、一気に引き起こしてくれた。頭が痛い。考えることが出来ず、爆豪に対して適切な言葉でまとめることが難しかった。
「・・・荷物、かせやオイ」
「、ありがとう」
「っぜェ」
爆豪は何も言わず黙って隣を歩いてくれた。普段の煩さとは打って変わって大人しい様子に驚きながらも、彼なりの優しさが風を通して身体に伝ってくるようで、少しだけ心地よかった。