「おはよう」
「っ!!紫那ー!身体は大丈夫なの?!心配したよー!」
「おう紫那!無事だったんだな!」
「心配かけてごめんなさい、よく寝たので元気。ありがとう」
「んん良かったあ!」
A組に入った途端、みんなの視線が一気に集まる。やがて掛けられた言葉は私を労う言葉ばかりで、優しいクラスだなと改めて感じた。
「それはそうとさ、今さ、なんで轟と登校してきてたわけ???え、もしかして、その・・あれとかでは、ないよね??ね???」
「?なに、上鳴。あれって」
「入学早々の、お付き合いとかそんなわけではないよね?そうだよね?」
「別にそういうのではないよ。ただ登校中出くわしたから一緒に来ただけ」
「!!そうかー!そうかそうかー!良かったぜー!」
「・・・じゃあ知多、また昼な」
「うん、分かった」
「んんんん?」
「なんか昼あるの・・・?」
「轟から昼ごはん食べようって誘われたから、一緒に食べるだけ、だけど」
「2人きりで?」
「うん」
「食堂で?」
「うん」
「へ、へえ〜・・・」
「「(入学早々、ビッグカップル誕生の予感・・・!)」」
***
「悪ぃ、待たせたか?」
「ううん。いまきた」
「突然誘ったが・・・よかったか?」
「うん。心配いらない」
意外と気遣い屋なのか。一緒にランチラッシュの列に並び、注文するのを待つ。相変わらずポーカーフェイスな轟は、特に何かを言うわけではなく、間に流れる変な沈黙が続いている。話しって?もったいぶっても仕方ないので尋ねると、轟は思い出したかのように反応した。
「知多は、親父、あー・・・エンデヴァーといまは交流あるのか?」
「交流、ってほどのことは何もしてないよ。ただ私を見つけて保護してくれたってだけ・・・ああでも、」
「なんだ?」
「1回だけ連絡が来た。報道に出たあとくらい」
「・・・そうか」
「見ていたんでしょう?轟も」
「あぁ、そうだな。・・・そんときにお前の話しも聞いた」
「そう・・・どこまで?」
「え、ああ」
母親に捨てられたこと。それに個性が影響していること。引き取る先中で扱いが良くなかったこと。轟が淡々と話していくそれらは、べつにもうどうでもいいことで、気に障ったかと伺うようにこちらをちらりと見た轟に、無言で笑いかけた。ほんとうに何も無い。私が悪いわけでも、誰かが悪かったわけでも、なんでもないんだもの。
「そんなに、やべぇのか。おまえの個性は」
「んん・・・それは轟も、誰でもじゃない?使い方を間違えれば、脅威に変わる。私のはそれが目に見えない形だから、信用がないと周りは怖くて逃げる。それだけ」
「・・・そうだな」
「うん。あ、轟何食べる?私サンドイッチ」
「俺は蕎麦だ。知多そんだけでいいのか?」
「昨日ずっと寝てて食欲ない」
「おまえが襲撃の後、眠っていたのは個性の影響かなんかか?」
「うん。個性を使い過ぎたのと私自身の疲れが混じって、ばったりと眠ったみたい。」
なるほどな、と相槌をうちながら轟と近くの席に座る。手を合わせて小さな声でいただきますと唱えると綺麗に箸を持って、上品に蕎麦をすする。育ちの良さは、エンデヴァーや母親の教育の賜物なのだろうか、などとどうでもいいことを思わせる。
「、見すぎだ。食べにくい」
「あ、ごめんなさい。蕎麦を綺麗に食べてるなって思って」
「?普通に食ってるんだが」
「ここの蕎麦美味しい?」
「ああ。・・・食うか?」
「んー今度食べてみようかな、轟美味しそうに食べてるし」
「別に一口くらい構わねえけど・・まあ気が向いたら食ってみてくれ」
「うん、そうする」
轟曰く、温蕎麦よりざる蕎麦らしい。なんと家でも蕎麦を食べるとのことで、轟の蕎麦愛は本物のようだった。
「いつの間にか蕎麦談義になっちまってんな・・・」
「ん?」
「話、戻していいか?」
「いいよ。なんの話ししてたか忘れたけど」
「おまえの報道の時の話しだ。あの時なんで知多は北九州にいたんだ?」
「えっとね、引き取られた親戚の家がそこらへんだったから」
「あのヤクザたちは親戚だったのか」
「いや、あれは親戚の知り合いだった。たぶん売られようとしたんだと思う」
「・・・まじかよ」
「だから個性発動させた。不可抗力でしょう」
「そうだな」
「まあそれで警察に感謝状もらった挙句、今お世話になっているんだけどね」
「そういえばそんな格好してたっけなコスチューム、」
「たいへんお恥ずかしい姿で・・・」
「?別に似合ってたぞ」
「・・・そう」
あの事件後、警察は安全が保証されたマンションで一人暮らしできるように手配してくれたし、感謝状と共に貰った有り余る程のお金は、今の私の生活資金になっている。お金もなにもまったく気にしなくていい。そう言ってくれた大人達に、私はいつかこの感謝を返さなければならない。
「なんか、私ばかり話している気がする」
「そうか?」
「轟のことも聞かせてハイブリッドの個性よね?すごい」
「・・べつに大したことねえぞ」
「それが原因だったりする?エンデヴァーを恨んでるの」
「、なんだ突然」
「今までのあなたの口振りからして、そんな感じがしてたから。あと表情もずっと気になって。沸々と込み上げる憎しみみたいなもの。・・・気に障ったならごめんなさい」
「・・個性、使ったのか?」
「ううん、使ってない。でも見れば分かるよ。普段の言動、とかね」
「そうか。まあ、察しの通りだ」
「そう。・・苦労してるわね、お互い」
「ああ」
轟の顔が少し曇る。やはりこの親子はいい関係を築けていないようだった。エンデヴァーの記憶は曖昧だが、エンデヴァーに抱きかかえられたとき、その腕の中がとても温かかったのだけははっきりと覚えている。炎を使う個性だから、なのだろうが、その温もりは私を安心させた。
「体育祭、エンデヴァーは来る?」
「多分な」
「じゃあ一言ご挨拶しようかな」
「・・やめとけ。時間の無駄だぞ」
「そう?轟と同じクラスなのも何かの縁だと思うんだけど・・・」
「、いやダメだ。・・紫那のことは、ちゃんと俺から説明できるようになりてぇ、」
「説明・・?そうね、久しくあってない私から挨拶するより轟からしてもらったほうがエンデヴァーも都合が良いかも」
「?ちょっと違うが・・まあ、頼む」
きっと、轟の出す炎も同じように温かいのだろうが、彼は未だに凍らせる個性しか見せない。憎しみの後ろにある"寂しさ"が、なんとも言えなかったのでそれ以上は口を噤んだ。個性は難しい。望んだり拒んだりする先で、個性と自分が切り離せないことを嘆く。個性のなかった時代が少し、うらやましかったりも、する。
「なんか、おまえってよく分かんねえな」
「え?どこらへんが?」
「思考読み取るっつうから構えちまうけど、喋ってるとなんかそうでもねえっつうか、」
「四六時中みんなの思考読んでるわけじゃないよ、いままでを顧みるに、周りの人の考えてることなんて知らない方が幸せだし」
「そうか・・なんか、サシで話してみると、意外だった。意外と鈍いっつうか・・・」
「?にぶ、い」
「良い意味でだ。まあ鋭いところもあるみてえだが・・・なんか少し俺と近いかもな」
「そう?、」
「ああ。似てる気がする」
「(?気分良さげな、顔・・・)」
似てる箇所はよく分からなかったが、クラスのトップにそう言われるとは恐悦至極だと返すと、轟は鼻で笑って最後の蕎麦のひとくちを啜った。