「・・・お、」
目が覚めると、予想以上に人が集まっていた。どうやら寝ている間にクラスメイトのほとんどが入ってきたらしい。静まり返っていた空気とは程遠い騒がしさに、中学も高校もあまり変わらないなと感じた。
「・・・!てめぇは?!」
「、ん?」
「入試ンときの女じゃねえか!!」
「え、わたし?!」
「てめぇだよ!クソ野郎!」
「え、うるっさ・・・」
「てめぇ、どんな個性持ってる?!俺に何をした?!」
「待って。怒鳴らないで、そして少し離れて」
「うっせぇ!!」
「だから、離れてっ、て!」
初めて誰かにてめぇと言われたので、対応が遅れると、その隙に暴言を吐かれながらぐいぐいと距離を詰められる。たしか、この顔は───入試の時の彼だ。この状況を見るに彼は沸点が低いのだろうか、などと考えている間に彼は今にも殴り掛かりそうで、クラス中の視線がこちらに向いているのがわかる。
「やむを得ない、ね」
「あ?・・・っ」
「離してって、言ったでしょう」
仕方ない、と個性を発動させた。あいにく爆発屋の彼は、ちょうど正面を向いてくれていたし、瞳孔もしっかり捕えたので上手く効いたらしい。入学初日から個性を使うなどついてない、と思いながらもこれは正当防衛だと自分を嗜める。
「お、おまえ、」
「・・・なに?」
「すげぇな!どんな個性だ?」
「・・・えっと、その・・」
「俺は切島鋭児郎!途端に大人しくさせたけどよ、なにかしたのか?」
「───欲望を、すこし抜き取ったの」
「え?」
「欲望。食欲とか睡眠欲とか承認欲求とかの、あれ」
赤い髪の毛をした彼が、少し難解な顔をする。たしかに分かりにくいよね、と前置きしつつこれからわかると思うという旨を伝えると、彼は尖った歯を見せて了解してくれた。表情を読み取るに、彼は根からの明るい人だ。目に澱みがない、とても純粋な色をしている。
「ありがとう、」
「あ、名前とか、聞いていいか?」
「わたしは、知多紫那。よろしく」
「よろしく!」
「お、俺は上鳴電気!この流れに便乗させてくれー!」
「あ、うんよろしく、?」
「てか、あれだな!めっちゃ美人だな!彼氏とか居る?!」
「い、ません」
「え〜!居そうなのに!」
「そう?あなたは少し、チャラい」
「あ、バレた?」
「苦手なタイプだけれど、どうぞよろしく」
「し、初対面で、はっきりと拒否られた・・・!」
「私もよろしいですか?八百万百といいますの。紫那さん、ですわね?席も近いですし、よろしくお願いしますわ」
「はじめまして。よろしく」
「わあ〜私も私も〜!芦戸三奈っていうよ!あのツンツン頭大人しくさせてすごいね!仲良くしてね!」
「あ、うん。ありがと」
「友達ごっこがしたいならよそに行け・・・ここはヒーロー科だぞ」
予期せぬ自己紹介コーナーがスタートしていたところで、寝袋を纏った人がクラスに入ってきた。発言からするに、担任の先生のようだ。ぞろぞろと席に戻ると、その人は気だるげにため息を零した。
「はい、静かになるまで8秒かかりました。時間は有限、君たちは合理性に欠けるね」
「合理性、」
「君たちの担任、相澤消太だ。よろしく」
「担任らしくない、わね・・・」
「全くですわ・・・」
隣のモモちゃんが私の言葉に同意してくれた。相澤先生は淡々と、これから体力テストだということを告げ、入学式もそっちのけでグラウンドに集合との指示を出した。さすがヒーロー科、イレギュラーだらけである。
「入学式、親が来てるところは楽しみなのでは・・」
「何か言ったか知多紫那」
「いえナンデモアリマセン」
雄英高校、やばい。