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 アヤの出で立ちは昔戦争の英雄として揶揄されてついたあざな 歩く武器庫 をよく示していた。背中側の腰に二丁、腰の右側に一丁、右の太腿に一丁、脇にそれぞれ一丁ずつ。銃は計六丁。左の腰にはマガジンが大量に入るポーチがついていて、左足にはナイフがある。重いが、こういう状態で走るのはアヤにとって慣れっこなので問題ない。
 職員室を出たアヤ率いる部隊は一階から二階に上がった。二階と言えばアヤと赤司くんが捉えられていた一年生の教室がある場所だ。アヤは先頭でハンドサインと言えないくらい単純なジェスチャーで 止まれ や 進む方向などを示しながら慎重に進んだ。
 今回はトラブルになっていそうな黄瀬くんの捜索がメインになっている。だからシンとしている一階に用はない。もしかしたら無駄な戦闘を避けるために開けていない教室に他の子たち居るかもしれないのだが、彼らの優先順位は低いので勘弁して欲しい。
 またL字の校舎の折れ曲がっている場所にある階段を使って今度は三階に行く。階段の踊り場から階段の上を見た時、動く影が見えて思わず硬直する。止まれの指示を出し、シグP230jpのグリップをしっかり握った。アヤの様子を見て、メンバーの雰囲気も硬く鋭くなった。
 三階は二年生の教室のようで、アヤは迷わずゾンビの向かった方に足を向ける。丁度L字型の短い方だ。角を曲がるとぎゃああ とか うわああ とか 男の悲鳴が聞こえて、とても分かりやすく騒いでくれていた。念のため後ろを振り返ると苦笑した小堀くん、大声を出しそうな早川くん、の口を抑える森山くん、しんがりを務める赤司くんが力強く頷いた。
 扉を叩く事に夢中なゾンビの群れに先制攻撃を仕掛けたのはアヤだった。教室の後ろの扉の前にアヤが立て膝で連射。その後ろに立つ早川くんがアヤの援護と後ろへの警戒。その隙に教室内に侵入した赤司くんと小堀くん、森山くんが黄瀬くんの救出に向かう。中にゾンビが既に居た場合は森山くんと赤司くんが対処して、小堀くんが鍵を開けて手錠を外す。おそらくまだ侵入はない筈なので森山くんと赤司くんはゾンビが扉をぶち壊して侵入してきた場合に備えて警戒をしているはずだ。
 ゾンビは、別名の通りアンデッド(不死身)のようだった。打つとしばらく動かなかったり、関節を狙うと動かせなくなったりするようだが、とてつもなく面倒くさいことになりそうだ。思わず舌打ちをして、早川くんに任せて教室の様子を伺う。丁度赤司くんを先頭にして、森山くんと小堀くんが黄瀬くんを引っ張る形で出て来る。あとは職員室に逃げ込むだけだ。みんなの予想では一階にゾンビは来れないから。


「GoGoGo!!」

 三人が教室から飛び出して来て、早川くんとアヤもそれに続く。走りながらアヤより余裕のある早川くんがマシンガンをたまに
撃って追手を撃退する。三階と二階の間の 二階側の階段を走っている時、三階から追って来たゾンビがくの字に折れ曲がる階段の上から身を乗り出していて、降って来た。
 これはアヤにも早川くんにも予想外の出来事で、早川くんがぎゃあ、と叫んだ。アヤは動きが全てスローモーションに見えて、恐ろしく早く回る頭がゾンビの落下地点をはじき出す。放物線的には黄瀬の上半身を直撃するだろう。そこから考えていたのか身体が勝手に動いたのか分からない。屈んで、黄瀬に思いっきり足払いを仕掛ける。バランスを崩した黄瀬は尻餅をつく形でくずおれ数段そのまま滑る。落ちて来るゾンビをアヤが脇のホルスターから出したコルトガバメントで撃つ。
 シグP230jpやFN ブローニングと違って大口径のこの銃は、近距離で撃ったせいかゾンビの腐敗した脳みその部分を四散させた。ゾンビの脳みそシャワーを浴びた面々が顔を強ばらせたが、それよりも身の安全が大事なのですぐに走り出す。呆然として腰が抜けてしまった黄瀬くんは正直邪魔で、小堀くんと森山くんが肩を担いでやっと覚せいしてくれた。
 そこからは危なげなく職員室に戻る事が出来た。息も絶え絶えに、血まみれで帰還したアヤたちは全員の好奇の視線を浴びる。その余り良くない空気をぶった切ったのは黄瀬くんの何なんスか!という叫びだった。
 駆けつけた笠松くんが心配の照れ隠しなのか黄瀬くんにゲンコツをして、怒鳴られながら説明を受ける。あ、笠松くんって本当はああいう感じなのか。すっごいタイプ。あの反応を自分にもして欲しいものだと思っていたら、今吉くんがニコニコしてやってきて、少し寒気がした。

「今吉くん?」
「なんでそんな揃いも揃って血まみれなんです?」
「えーっとねぇ、ゾンビの腐敗が思ってたより進んでて…撃ったら、ね?」
「無茶はしてへんな?」
「うん、無茶してないよ」

 心配してくれてありがとう。素直に言えば今吉くんはぐっと言葉を詰まらせて、持っていたタオルで顔についていた血を拭ってくれた。紺色だからどれだけ血が付いてしまったか分かりにくいが、少し申し訳なかった。


ヒロインの歩く武器庫な装備は普通ならありえないですね。普通は銃をたくさん持つんじゃなくて弾や弾倉をたくさん持つ筈です。そうしないのは多分接近戦になった時ヒロインは銃を鈍器扱いしたりするだろうなぁっていう建前と、いろんな銃を持たせてぶっ放して欲しいという本音からです。

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