Re:さっきより怖い



 犯人が連行されていくのを確認し、胸を撫で下ろす。本来ならばxxxに触れたそいつの腕は二度と使えないようにしたいところだが、それは自分の立場が許さない。取り押さえたときに前腕のどれかの骨が折れているかもしれないが、それは仕方ないだろう。
 僕の弱みとなるxxxは組織に感知されれば必ず危険な立ち位置になるだろう。そうなることを恐れて今までxxxとの接触を最低限にしてきたが、今日のような危険もあることを考えれば僕が傍に居て守るべきかもしれない。いっそ一緒に住んでしまおう。そうすれば何より彼女も僕も、もう寂しい思いをしなくて良くなる。
 xxxを見れば、佐藤刑事やコナン君と会話をしているようだった。いつもの盗聴用イヤホンをつけるわけにはいかないので、会話は近づかなければ聞こえない。
「xxxさん、格闘技を習ってるの?」
「そうじゃないんだけどね、丁度この間――」
「彼女は最近、友人に護身術を習ったばかりだったんですよ」
 ね、とxxxに微笑みかければ一瞬驚いた様子だったがxxxも笑い返してくれた。本当に可愛い。コナン君はxxxの説明を聞いて引っかかる所があったようで、僕にそっと耳打ちをしてきた。
「xxxさんて警察の人なのに刑事さんたちにあんまり慣れてなかったよね。もしかして安室さんと同じ所属?」
「まさか。僕は探偵ですからね、彼女は警視庁の隣に務める人間ですよ」
 そう返せばコナン君は少し考えこんで納得したように続ける。
「そういうことか。でも、初対面なのにxxxさんのことを知っていたのは?」
「僕の大切な婚約者ですから」
「えっ……“安室透”の? それとも」
「さあ、そこまではいくら君にも教えることは出来ません」
 ニヤリと秘密主義の仮面を被ると、知りたがりの彼もこれ以上の収穫はないと判断したようだ。へえ、と短く返事をしてコナン君は耳打ちをやめた。

 xxxやその他とある程度会話をして少し経つと、そろそろ帰ろうという頃合いになった。
「ではxxxさん、こんな時間に女性1人では危ないですからお送りしますよ」
「そんな申し訳ないですよ、家もこの近くなので大丈夫ですから」
 彼女は焦ったように断った。僕とこんなに長い間対面したことがないので、きっと戸惑っているのだろう。ぜひお送りしますと強く押しても、大丈夫ですの一点張りだ。今まで二人きりになったこともないので、照れているのかもしれない。結局、コナン君の援護もあり僕が送ることになった。
 勢いでxxxの肩を抱いて車まで歩いてしまった。エスコートに不自然な点はなかっただろうか。車までの少しの間、xxxは少し困ったようにこちらを見ていたが、僕を心配してくれているのだろう。組織には感づかれないようにするが、もしも警察の人間を送ったことがバレても安室透ならば不審ではない。
 xxxが隣を歩く。
 xxxが僕の隣に座っている。
 xxxが僕に話しかけてくれている。
 生きていて、こんなに嬉しいと思ったことはない。あともう少しで一緒に住むことになるのだから、これ以上の幸せが待っていると思うとどうしたらいいのか分からなくなる。

 幸せな時間はあっという間に過ぎ、気づけば彼女のマンションの前だった。ここには何度も来たことがある。xxxの帰りが遅くなる日はたいてい彼女の同僚がxxxを車で送るのだが、僕はその後ろを護衛する。xxxとの接触は最低限にしなければと思っていたので、安室透のままでは送り迎えが出来ないのだ。彼女を夜道に1人で歩かせないという同僚の選択は正解だ。しかし僕はそいつが彼女に何かするのではないかと気が気ではない。xxxは僕以外の事を好きになったりしないが相手はその限りではない。時間に余裕がある時はベルモットに任務で必要だからと頼んで彼女の同僚に変装をし、代わりに僕が送ったこともある。
 ではまた、と声をかけようとしたところでxxxが少し考えこんでいることに気が付いた。
「どうかしました?」
 聞くと彼女はいえ、と困ったように笑って再度お礼を言って車を降りた。ベルモットに気付かれると厄介なので後で掃除をしてしまうが、その前に助手席の残り香を堪能しよう。
「一度見せただけの免許証の内容を覚えてしまうなんて、流石探偵さんですね」
 ドアを閉める前に言われたその言葉に目を見開く。彼女はまだ僕と他人でいようとしているのか。安室透が住所も聞かないまま迷わずここへ来たのだから、そういうことだと察してほしかったのだが。もっとも彼女のことなので、察したうえでの発言なのかもしれない。しかし、一応はっきりと言っておかねばならないだろう。
「僕が安室透としてここへ来たのは、もう僕たちの関係を偽らなくても良いと思ったからですよ」
「はい?」
 そんな事を言っていいのかという顔をするxxxの不安を取り除くために言葉を重ねる。怖い思いをさせたことへの謝罪や、これからは自分が守るから一緒に住もうという旨などを語っているうちに胸が熱くなってしまった。無意識に早口にもなっていたことだろう。赤くなりそうな顔を見せたくなくて、近いうちに迎えに行きますと伝えてその場を後にした。
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