案外御しやすい



 今のところ私は、安室さんから大切にされて過ごしている。朝起きて、適当に家で好きに過ごしていると夜遅くに安室さんが帰ってくる。私はただ彼に「いってらっしゃい」「おかえりなさい」と声をかけ、少しの家事をしていれば良いのだ。携帯は新しいものを与えられかつての知り合いと連絡を取り合うことは出来ないが、不便はそれだけだ。
 ネットでクレランボー症候群について検索をかけてみたが、有用な対抗手段は見つからない。幸いこれ以上ないくらいの好待遇にあるので、飽きられるまで待つのも悪くない。よく考えてみれば、イケメンに大切に養ってもらえるならもうそれで良いのではないか。わざわざこの状況を手放す必要がどこにある。
 そこまで考えて、いやいやと首を振る。この家に住むことになってすぐに、安室さんが真剣な顔をして大事な話がありますと言った時のことを思い出す。
「xxxのことですから、僕……いや、俺が何も言わなくてもわかっているだろうが、きちんと言っておこうと思う」
 そう切り出してから続いた彼の話は、海外ドラマのような内容だった。安室透――本名を降谷零――は公安警察で、今は黒の組織という危ないところに潜入しているそうだ。トリプルフェイスを使い分け、労働基準法など存在しないかのように働いている。最初はこれも私を恋人だと思い込むのと同じく妄想だろうと考えていたのだが、武道に長けていることや並外れた知力、そして簡単に高級車や高級マンションを持ててしまう財力から見るに、本当のことらしい。話している時に口調や一人称が変わっていたが、それが降谷零ということなのだろう。
 ということであれば、安室さんの傍にいるのは危険な気がする。彼は必ず守ると言ってくれるが、安室さんと今後一切関わらなければ守られるような事態になることもない。知らなきゃよかった、というのが正直なところだ。やはり早めに安室さんから離れた方が良いと思う。

 暇だし気分転換に近くの公園にでも行こう、と出かける準備をした。アクティブな趣味は持っていないが、ここ数日ずっと家にいるので散歩にも丁度いいだろう。まだ日は傾いていないけれどお昼はとうに過ぎている。夕方になるまでには帰ってこよう。
 マンションを出て10分足らずで長閑な公園に来ることができた。都会にある観光地でない公園にしては広く、夏場には中央の噴水で水遊びができそうなほどだ。ウォーキングやストレッチをするシニアやサッカーを楽しむ子供たちがいる。その子供たちの中に、見た事のある顔を見つけた。向こうも私に気が付いたようで、駆け寄ってくる。
「xxxさん!」
「コナン君、だったよね。こんにちは」
 彼のお友達も一緒にこちらへやってきた。コナン君は少し大人びた子だがきちんと年相応のお友達もいるらしい。彼らは元太くん、光彦くん、歩美ちゃんというそうだ。せっかくなので公園の端にある大きめのベンチに腰を下ろして話すことになった。
「xxxさん、あれから何ともない?」
「自分でも驚くくらい、何のトラウマにもなってないの」
 そう言って笑うと、コナン君は良かったと安心した表情をした。一体何の話だと聞く元太くんたちに、この間の事件を説明する。話をしている間、何かあるたびに大きな反応が返ってきて微笑ましくなる。
「コナン君もね、大人に負けないくらい大活躍だったんだよ」
「ぼ、ぼくはちょっと小五郎のおじさんの手伝いをしただけだから……」
「コナン君はぼくたち少年探偵団の一員ですから、当然です!」
 聞きなれない単語に、思わず少年探偵団? と聞き返す。すると少年少女たちが得意げに話を聞かせてくれた。学校や町の事件を彼らで解決しているそうだ。通信機能もあるというバッジも見せてくれた。子供たちと少しお喋りをしていると、思ったよりも時間が経っていたようで日は傾き始めていた。
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