案外御しやすい2



 そろそろ帰ろうか、と少年探偵団に別れを告げようとすると遠くから私の名前を呼ぶ最近聞きなれた声が聞こえた。
「xxx!」
 声のした方を見れば血相を変えた安室さんだった。ああ、そういえば連絡を忘れていたかもしれない。最初に外出の連絡を忘れたことで怒られてから、コンビニに行くのでも連絡を入れていたのだが、今日はうっかりしていた。様子から見るに、うっかりしていましたと言おうものなら外出禁止令がでるかもしれない。
「良かった、無事か。外に出るならどうして連絡をしてくれなかったんだ」
 そう言いながら安室さんは私を抱き寄せた。メンズ香水と汗の匂いがする。何て答えようかと迷い、なかなか口が開けない。近くで少年探偵団のヒューヒューという声がした。
「安室さんとxxxさんは、恋人同士なの?」
 歩美ちゃんがキラキラとした目でこちらを見ている。本当は違うけれど、安室さんの中ではそうなの。なんて、そんなことを言うわけにもいかずに安室さんを見る。彼はそれをどう受け取ったのか、もう隠さなくて良いと私の頭を撫でた。
「xxxは僕の大切な人だよ」
 安室さんがそう言うと子供たちはいっそう囃し立てた。
「そうだ、安室さんはどうしてここに?」
「……家に帰ったら居るはずのxxxがいないから、何かあったんじゃないかと思ってね」
 コナン君が聞くと、安室さんは少し言い淀んでから口を開いた。しかしそれを察したのは私とコナン君だけだったようで、他の子供たちからは心配性だが恋人思いという評価を貰っていた。恋人の携帯にあるGPS機能を監視していて外出連絡がないのに外に居るので来ました、なんて小学生に言えないか。とりあえず穏便に事を済ませたいので、心配かけてすみませんと謝った。
「どうして連絡をしなかった?」
「今日は早く帰れそうと聞いていたので、内緒で夕飯と作って待っていようと……それで、ちょっとお買い物にいく途中で」
 とっさに出た言い訳がそれだった。単純に「忘れていました」と言うよりも怒られないかもしれないという期待を込めてのことだったが、予想以上の効果があったようだ。安室さんは一瞬息を止めて目を見開いたあと、胸に手をあてて深呼吸している。数秒だけそうして落ち着いた安室さんは、心配したんだぞと私を見るがそれ以上お小言を言う様子は無かった。

 少年探偵団と別れて、安室さんとスーパーに向かった。今日の仕事はもう良いのだろうか。気になって尋ねてみると、目をそらしながら気にするなと返ってきた。
「xxxの手料理は嬉しいが、今度からは宅配を使ってくれ」
 本当に気が気じゃなかった、と彼は珍しく眉を寄せて零(こぼ)した。以後気を付けよう。
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