Re:案外御しやすい



 降谷零は幸せの絶頂にいた。最愛の人が家で待っているというだけで、仕事にも気合が入る。携帯を開き、xxxの所在を確かめる。良かった、どこにも行っていない。携帯を買い与えた時に、何かあったら心配なのでとGPS機能の話はしてある。xxxは文句を言うことなく、素直に受け入れてくれた。外出時の約束も守ってくれている。一度だけ外出の連絡が来なかったこともあるが、それを注意してからは数分の外出でも連絡をくれるようになった。
 今日はめずらしく警察庁での仕事しかない。早く帰ってこれそうだ、とxxxにメールをした。あまり間を置かずに返信が来る。了解です、という素っ気ないが彼女らしい内容に目を細めた。
「降谷さん、最近機嫌が良いですよね」
 風見がコーヒーを差し出しながら言った。それを受け取りながら、そうか? と返す。降谷零ではどこで彼女の情報が洩れるか分からないので、上機嫌の理由を言うつもりはない。時計を見ればちょうど昼時だった。
「機嫌が良いついでに、昼飯でも奢ってやろう」
「本当に何があったんですか」
 心底不思議そうにする風見を適当にかわし、以前xxxのよく行っていた店に入った。


「でも、安心しました。降谷さんもそんな顔できるんですね」
「俺を何だと思っているんだ?」
「能力の高さ故に無茶をして死に急ぎそうな愛国心の塊、だと思っていたんですけど」
 馬鹿にしているのか、と眉を上げればまさか! と風見は笑った。彼の言うこともあながち間違いではないが、xxxがいる以上死に急ぐことはないだろう。グラスに移る自分を見つめながら、俺はまだ死ぬつもりはないと宣言する。思ったより力強くでた声に風見は驚いたあと、柔らかい表情で言った。
「降谷さんにそんなことを言わせる方に、会ってみたいものですね。感謝もしなければ」
 今度は自分が驚く番だった。理由が人だとは一言も口にしていない。確かに国の為なら自分が犠牲になることも厭わないという考えは、xxxに出会ってから変わった。しかし、そんなにわかりやすいだろうか。忍ぶれど何とやら、だ。否定も肯定もしない俺を見て、風見は満足そうにしていた。

 昼食を終えて仕事に戻る。机に向かっていると2,3時間はあっという間だ。あと一息で書類も片付きそうなので気合を入れる。今頃xxxはどうしているだろうか、と携帯を確認して心臓が凍り付いた。xxxが家にいない。慌ててメールを確認するが、どこに行くという連絡もない。大急ぎで帰り支度をし、風見に急用が出来たと伝えてxxxの下へ向かった。
 法定速度を無視して車を飛ばす。xxxは無事だろうか。先ほど見た移動速度から見るに、車ではない。もう一度彼女の居場所を確認すれば、公園にいるようだった。昼間は長閑で危険もない場所だが、深夜は危ない連中の溜まり場だ。冷や汗がシャツを濡らす。いつかのように、連絡忘れだと申し訳なさそうにする彼女を期待して公園近くで車を止め走った。

 公園でxxxを見つけ、大声で彼女の名前を叫ぶ。俺の声に気付いたxxxが、こちらを振り向く。しまった、という顔をしたのを俺は見逃さなかった。その表情の理由は、俺へ知らせるのを忘れていたことを思い出したからだろうか。そうであってくれ。彼女に駆け寄ると、そのまま抱きしめる。大丈夫、xxxはここにいる。xxxの細く頼りない肩をしっかりと掴み、絞り出すように囁く。
「良かった、無事か。外に出るならどうして連絡をしてくれなかったんだ」
 xxxは何と答えようか迷っているようだった。一瞬、自分から逃げたのではという考えが過ったがすぐに振り払う。xxxに限ってそんなことはありえないし、逃げるとしたらこんな風に抱きしめ返してはくれないだろう。
「安室さんとxxxさんは、恋人同士なの?」
 歩美ちゃんが興味津々と言った様子で尋ねた。他の子供たちも同様の目をしている。xxxは頷きかけて、確認するように俺を見た。今は安室透なので、隠すことは無い。コナン君にも婚約者だと紹介してしまっている。
「xxxは僕の大切な人だよ」
 涼しい顔でそう言えば、子供たちから歓声が上がった。少しだけ雑談をしかけて、まだxxxから質問の答えを貰っていないことを思い出す。
「どうして連絡をしなかった?」
「今日は早く帰れそうと聞いていたので、内緒で夕飯と作って待っていようと……それで、ちょっとお買い物にいく途中で」
 思いがけない回答に、先ほどとは違う意味で息が止まった。彼女は俺を喜ばせる天才かもしれない。全く可愛いことをしてくれる。危険な目にあっていなくて安心したことや、外に出るなら知らせてくれという説教などが全て頭から消えてしまう。うるさい心臓を深呼吸でなんとかして落ち着かせ、せめてもの小言をと心配した旨だけを伝えた。

 子供たちと別れ、xxxと一緒に買い物に行く。仕事はもういいのかと尋ねられたが、もう今日は仕事など手に付かないだろう。気にするな、と短く返した。xxxの手料理が楽しみだ。商店の窓ガラスに映った自分の顔は、風見にあんなことを言われるのも最もだという程に緩んでいた。
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