Fw:その推理は正しい



 デパートの地下において起きた事件で知り合ったxxxxxという女性は、江戸川コナンもとい工藤新一にとって興味深い存在だった。危険な状況にあっても冷静な判断を下すことが可能で、運動神経も悪くない。安室さんからは婚約者だと耳打ちされたが、それを示す証拠はない。恋人同士らしく振舞いはするものの、彼女が安室さんに向ける視線には特有の熱がこもっていないように思えた。一方安室さんはxxxさんを至極大切そうに扱い、この間の公園でも只ならぬ執着を感じるほどだった。蘭たちが想像しているようなありふれた関係ではないのかもしれない、というのがコナンの見解だ。


「あれ、コナン君に蘭ちゃん……と、お友達?」
 蘭と園子に連れられポアロへ行くと、xxxさんがカウンターに座っていた。xxxさんこんにちは、と挨拶をする。xxxさんと園子は初対面だったようで、お互いに自己紹介をしている。園子はxxxさんの名前を聞くと途端に顔を輝かせ同席を勧めた。
 xxxさんが安室さんの大切な人だというのは有名な話で、安室さん本人も否定どころか嬉しそうにしている。ただ、梓さんや蘭に「あの事件のあったデパートで知り合った」と説明しているのであくまで“安室透の恋人”だと周囲に認識させたいらしい。
「xxxさんて、あの安室さんの婚約者だってハナシじゃない! やっぱりイケメンの隣には相応の美女がいるものね〜」
 園子の発言に、おいおいと内心ツッコミを入れる。俺には婚約者だと紹介したが、この間ポアロで「近々プロポーズをしようと思っている」と蘭と園子相手に洩らしていた。ということは未だそうでないのだろう。xxxさんの反応からしてプロポーズは受けていないようであるし、何より指輪をしていないので明白だ。xxxさんに婚約の話を今聞かせるのは拙い気がするのだが、恋の話が大好きな花の女子高生たちには関係ないらしい。
「私が婚約者だって、安室さんが言っていたの?」
 不思議そうにするxxxさんに、園子たちもやっと失言だったと気付いたようだ。婚約という一大サプライズイベントを潰しそうになっているのだから、青ざめもするだろう。園子は見るからに動揺していた。xxxさんと視線が合ったので、同情の意味も込めて乾いた笑いを送っておく。
 園子の必死の弁明に気分を害した様子もなく、納得の言葉を口にしたxxxさんは優雅にアイスコーヒーを飲んだ。まるで他人事だと思っているかのようだ。他人といえば、と以前から少し気になっていたことをxxxさんに確認する。
「そういえば、恋人同士なのに“安室さん”って呼ぶんだね。どうして?」
 親密な関係であっても苗字で呼び合うことはあるが、小学生にとっては違うだろう。できるだけ小学生を前面に押し出して無邪気に尋ねた。xxxさんは応えようと口を開きかけ、すぐに表情を変えて照れたように微笑んだ。一瞬何か言葉を飲み込んだらしいが俺しか気付いていないようだ。xxxさんは「ちょっと恥ずかしくて」とはにかんでいる。美人の見せる可愛らしさに騙されそうになるが、きっとそれは本心ではないのだろう。


 もしかすると、xxxさんは安室さんに好意を抱いていないのかもしれない。ハニートラップに安室さんが掛かるとは思えないが、どうだろう。後日安室さんに考えたことをそれとなく伝えたところ、冷たい目で否定された。射殺すような視線は流石組織の幹部さながらと言ったところだろうか。執着と純愛の色を宿した安室さんの瞳を見て、被害者はxxxさんなのかもしれない、とそっと思案した。
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