高そうなお店はたいてい美味しい



 滅多に鳴らないインターホンの音が部屋に響いた。液晶画面から確認できる限り、宅配業者ではない。スーツを綺麗に着こなし、やけに姿勢の良い男女が数人。これは応答しない方が良いな、と無視をしかけて今朝の安室さんの言葉を思い出した。今日は夕方に降谷零の知り合いが尋ねてくるので彼らと一緒に行動するように、ということらしい。降谷零の知り合いとはこの人たちのことだろう。
 はあい、と応答をしてエントランスの自動ドアを開けた。エントランスからこの部屋までは数分でたどり着く。それに間に合うように玄関のドアを開けて彼らの到着を待った。予想を裏切ることなくこちらまでたどり着いた彼らは、私を確認すると駆け寄ってきた。スーツ集団に追われている気分で少し怖い。
「降谷さんの御命令で、お迎えに上がりました。どうぞこちらへ」
 想像していたよりも幾分柔らかい笑顔で外へ出るように促される。出かける支度をするので数分だけ待ってくれと頼み、財布や携帯をバッグに入れて靴を履いた。
「よろしくお願いします」
 何が何だかよく分からないが、挨拶だけはしておこうと頭を下げる。スーツの彼らはこちらこそ、と丁寧に返してくれた。


「xxx、いつになく綺麗だね」
 スーツの方々に連れられ、あれよあれよと美容室やドレスショップをクリアし正装で辿り着いたのは、高そうなレストランだった。そこには安室さんがいて、スーツの方々に何やら指示をしている。ああいや、今は零さんの方だろうか。彼も正装に身を包み、ただでさえ高い容姿の偏差値が新記録を叩き出している。零さんも素敵ですね、と素直に感想を述べれば少し照れたように笑っていた。
 案内された席に着き、零さんがドリンクを注文する。店の雰囲気から察するに料理は注文済みだろう。夜景が綺麗だという話をしながら、狙撃されるには絶好のポイントだなと場違いな事を考えた。
「今日は、何か特別なことが?」
 運ばれてくる食事や飲み物に舌鼓を打ちながらそう尋ねると、零さんは視線をさ迷わせ曖昧な返事をよこした。何か言いにくいことでもあるのだろうか。気にならないと言えば嘘になるが、強引に聞くまでもないので追及はしない。必要ならそのうち教えてくれるだろう。零さんから料理に視線を戻し、他愛ない話題を探した。


 ディナーは滞りなく終わった。ご馳走様でした、と席をたち促されるがまま零さんの車に乗る。いつもの白い車ではないが、これも高そうだ。
 零さんの様子やこの状況、そしてこの間の園子ちゃんの話からつまりはそういうことだろうと推測していたのだが杞憂だったようだ。覚悟していた通りにならず大変有難いことだが、期待していたようで気恥ずかしい。
「どこへ行くんですか?」
「俺のお気に入りの場所」
 道筋からしてまだ家に帰らないつもりだなと目的地を聞けば、明確な答えは返ってこなかった。ちらりと隣の零さんを見ると、彼はもう少し付き合ってくれと私の頬を撫でた。その仕草は様になっているが、夜道なので前を見て運転して欲しい。飲酒運転でないのが救いだ。
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