Re:高そうなお店はたいてい美味しい



 発注していた指輪が完成した。それを取りに行く日、そわそわと落ち着かない俺に気付いた風見が、何かあるんですかと尋ねてきた。
「ああ、いや、別に」
「件(くだん)の彼女さん関係ですか」
 思いがけない返答に、飲んでいたコーヒーが気管に入った。ケホケホとむせる俺に風見が大丈夫ですかと背をさすってくれる。しかしその顔は心配しているようなものではなく、ニヤニヤと面白いものを見たような表情だ。どう切り抜けようかと頭を必死で働かせる。
「隠さなくていいですよ。どうせ降谷さんのことですから、彼女を大切に思ってのことでしょうけど。降谷さんの大切な方は我々にとっても同じです」
「しかし――」
「信用できませんか」
 先程の表情から一転して真剣な面持ちの彼が発したのは、疑問形ではなかった。反射的に否定しようとしたが、開いた口からは何も出てこない。そう、信用できないのだ。風見がではない。むしろ彼は信じられる部類だが、この警察庁内にスパイがいないとは限らない。情報はどこから漏れるか分からないのだから。
 この世でxxx以外に何もかもさらけ出して良いと思える人間などもういない。だから俺は彼女を絶対に失うわけにはいかない。その為には降谷零やバーボンに繋がる彼女の存在を秘匿し、危険から遠ざけるべきだと思っていたのだが。
「降谷さんが何を考えているかはある程度推測できますが……なかなか寂しいものですね」
 何も言えないでいると、風見がため息をついた。心中察しているならこれ以上の追及はやめてほしいのだが。
「xxxさん、でしたか」
 眉間に皺が寄る。胸倉を掴もうとしたところで風見が両手をあげ落ち着いてくださいと静かに言った。以前俺が無意識に呟いた彼女の名前を手掛かりに、xxxについて少し調べた、と風見は俺にしか聞こえない音量で囁いた。瞬間目を見開く。風見の表情は未だ真剣そのものだった。
「尋ねても教えてくれないでしょう、降谷さん。だから先手を打つことにしたんです。あなたの守りたいものを、私も守りたい。味方は多いほうが良いでしょう」
 信じてください、と訴える彼の瞳に嘘は感じられなかった。日頃から嘘に慣れてしまった俺がそう感じるのだから、本心なのだろう。風見からふと視線を逸らし、細く息を吐く。熱くなっていた頭が少し冷えた気がする。
「わかった。そこまで言うなら、お前を信じる」
 そう言った俺に、風見が嬉しそうに笑った。その後調子よく続けられた、彼以外の俺の部下数人もxxxについて知っているという報告に頭を抱えることになったのだが。幸いにもその数人は俺ともよく知った仲で、仲間だと自信をもって断言できる。これでxxxを守るための盾が強固になれば良いが。

 結局、風見たちには洗いざらい話す運びとなり、婚約を考えていることも吐かされた。プロポーズはどんな風に、とはしゃぐ部下たちを見て複雑な気持ちになる。
「へえ、あのレストランですか! 張り切って護衛します!」
「xxさんの支度は任せてください。ドレスコードもバッチリですから」
「料理はこれが良いですね。あ、デザートやシャンパンに指輪を入れるサービスがありますけど……そうします?」
「車の手配もしておきますよ。念には念を入れないと」
 少々彼らの勢いに押されてしまったが、何とか当日の段取りは決めることが出来た。あとは俺の覚悟次第だ。部下にお礼を言って、指輪を取りに向かった。
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