Re:後輩
ペアリングしているxxxの携帯から、聞いたことのあるような女の声が聞こえてきた。xxxが柚と呼んだことから、彼女の後輩だったことを思いだした。少し前にxxxの捜索願を出していたようだが、俺が確認をして速攻破棄させたのを覚えている。小型のイヤホンでそのまま会話を聞いていれば仲良く昼食をとるらしいことが分かった。あまり間を置かずにxxxからメッセージが送られてくる。予想通りのそれに返事をすると、別の携帯に着信が入った。バーボンの携帯か。仕方なくxxx用の携帯とイヤホンをバッグの底に仕舞い、電話に出る。ベルモットが足としてお呼びらしい。またか、と舌打ちをしたいのを抑えて車に乗り込んだ。
ベルモットを目的地まで送り届け、完全に彼女から離れてからxxxの位置を確認する。喜多見柚はどうやらxxxに酷く執着している様子だったので心配だ。喜多見の家に入ってから大分時間も経っていることだし、迎えに行ってしまおうか。幸い、この後に大切な用事も無い。風見から申し訳なさそうに「時間があれば一度こちらに寄ってください」と言われたことを思い出したが、忙しかったと言えば問題ないだろう。
xxxのもとに向かう途中の車で、xxxの携帯から音を拾う。今日の昼まではイヤホンからxxxの鈴を転がすような声が聞こえていたのだが、それが無い。妙だ。後輩の家にいるのならば会話くらいするだろう。まして妬ましいことにそれなり親密だった関係だ。花が咲かないはずはない。もしや喜多見がxxxに何かしたのでは、と焦燥に駆られた。
xxxの位置情報をもとに到着したのはよくあるマンションだった。マンションの郵便受けから喜多見という表示を探し、部屋番号を把握する。エントランスのオートロックは、管理人を上手く言いくるめて突破した。友達の家に遊びに来たが寝ているようで連絡が取れない、だなんて簡単に信じるなよと言ってやりたいが今回は感謝する側だ。楽々と部屋の前までたどり着き、まずは正攻法でとインターホンを押す。電源を切ってあるのか壊れているのか、内側から鳴った気配は無かった。
「すみませーん、喜多見さーん」
トントンとノックをして声をかけると、扉の向こうで気配がした。ガチャリと扉が開き、喜多見柚が顔を見せる。チェーンもかけておらず不用心だ。玄関には女性ものの靴が数足並べられており、そのうちの1つはxxxがこの間梓さんと買ったと話していたものだった。
「こちらにxxxxxが来ていると思うのですが……」
「ええと、先ほど帰りましたよ」
xxxの名前を出すと喜多見は一瞬俺を警戒するように見たが、すぐにヘラリと笑い嘘をついた。ほう、と低い声で相槌をうつ。
「嘘はいけませんね。エントランスで管理人さんに聞きましたよ。xxxと容姿の一致する女性があなたと帰ってきたのは確認したが、まだ出てきてはいないってね。それに、その靴はxxxのでしょう」
そう言って上から睨めば喜多見もキッと睨み上げてくる。「私とxxx先輩の邪魔はさせない」と小さく呟いたかと思えば勢いよく扉を閉めようとした。急いで体を扉の内側に突っ込み、それを阻止する。入り込んでしまえばこっちのものだとそのまま廊下を進めば、後ろから気配がした。振り返りざま迫ってくる花瓶を確認し、寸でのところでかわす。花瓶はそのまま床に落とされ大きな音をたてた。
「何をするんです?」
「渡さない……xxx先輩は渡さないから。先輩に声をかけるのも、先輩のお世話をするのも、先輩を泣かせるのも、先輩を笑顔にするのも、先輩の目に映るのも、先輩の耳に届くのも、先輩の心に留まるのだって、全部全部私だけで良いんです。勝手なことしないでください」
「勝手なのはあなたの方ですよ!」
頭に血が上って喜多見の喉元につかみかかり、壁に押し付けた。さっきお前が言ったそれは全部俺の役目だと叫ぶ。何度か壁に叩きつけたので出血が認められたが、別に死ぬようなものでもない。気持ちだけで言うならば、殺してやりたかった。