Re:こんな休日もたまには良い



 今日はポアロにxxxが来る。あの喜多見柚というらしい女との会話で知ったことだ。xxxの予定はすべて把握しているが、xxxも僕を不安にさせないためか必要以上に出かけようとしない。そういえばxxxは僕がポアロで安室透としてアルバイトしていることを知っているのだろうか。いや、今日の僕のシフトは午前中だけであり、きちんと僕のいる時間帯に来てくれるようなので知っているのかもしれない。彼女に今の自分の状況を教える訳にはいかなかったが、言わなくとも察してくれるなんて愛の成せる業か。
「あれ、安室さん今日は機嫌が良いですね」
 何かあるんですか? と梓さんが尋ねるが、恋人が来るなんてこの人に洩らしたらどこまで広がるか分かったものではない。良い新作を思いついたので、と只でさえ上がりっぱなしの口角を更に深い笑みで誤魔化した。

 そういえば、xxxには僕の手料理を食べさせたことがなかったなと思いだした。店で不特定多数の人間に出しているというのに、だ。もしかして妬いているのだろうか。だから態々ポアロに来て僕の手料理を食べに……? 参ったな、これは腕に撚りをかけて作らなければ。他の客と同じものを出したのでは彼女の機嫌はとれないだろう。となると、xxxの為だけにスペシャルメニューを出すか。しかし彼女だけを特別扱いすれば僕との関係が明らかになってしまう。ああそうだ、試作品という形で提供すれば不自然ではないかもしれない。あと三十分もしないうちに来るようだし、そうと決まれば準備にとりかかろう。


 予想通りの時間にxxxたちは入店した。何食わぬ顔でカウンターの奥からいらっしゃいませと声をかける。梓さんが注文をとってきてくれたようで、サンドイッチとコーヒーの伝票が見えた。
「サンドイッチお願いします」
「ええ、わかりました。丁度新作もできそうなので、彼女たちに試食をお願いしたいのですが……」
 そう訴えればすぐに梓さんが了解をとりに行ってくれた。梓さんから事情を聞いたようで、xxxがこちらを向く。目が合うのはハンカチを渡した時以来だろうか。もう少し見つめ合っていたいけれど何とか会釈にとどめておく。どうやら快諾してくれたようだ。もっとも、xxxが断るはずなどないのだが。

 ハムサンドとフルーツサンドを皿に盛りつけ、xxxたちのいる席に持っていく。
「お待たせいたしました。ハムサンドと、こちらフルーツサンドです」
 安室透の笑顔で皿を置く。わあ、とxxxの可愛らしい声がした。これだけで機嫌を直してくれたのだろうか。全て終わったら僕の手料理を愛情たっぷりで好きなだけ食べさせてあげよう。そうしたらもっと喜んでくれるだろうか。
「コーヒーは食後にお持ち致しますので、その時にでもフルーツサンドの感想をお願いします」
 カウンターに戻る少しの間、xxxの視線を感じた。僕が恋しいのはわかるがもう少しだけ我慢してくれ。

 xxxたちが食べ終わる頃にコーヒーを持っていく。酸味が少なくコクと苦味の強いものが好きなxxxのために、豆を持ち込んでおいたのだ。サンドイッチの感想を嬉しそうに語ってくれる彼女を見て、はやく潜入捜査を終わらせなければと気合を入れた。
 時計を見ればそろそろ勤務が終わる時間だった。xxxの姿をもう一度目に焼き付けてから、梓さんとマスターにお疲れさまでしたと挨拶をしてエプロンを脱いだ。
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