早く帰りたい2



 あの倒れた女性は一命をとりとめたが、体内から毒物が検出されたそうだ。駆け付けた警察の人が毛利先生たちに話していた。どうやら知り合いの刑事さんらしい。すぐに毛利先生、安室さん、コナン君は顔色を変えたかと思えばテキパキと現場検証や聞き取り調査をし始めた。行動力がすごい。探偵って皆こうなのだろうか。大人たちと同じかそれ以上に動き回るコナン君を見て、もしかして探偵志望なのかなと呑気な事を考えてしまった。

「それでは、被害者の女性が倒れた時の状況をxxさん、お願いします」
「はい」
 被害者は生きているが、謂わば第一発見者の私は当然捜査協力という名目で簡単な事情聴取をうけることになった。特に後ろめたいこともないので状況を思い返しながら覚えていることを素直に話す。
 一通り話し終えた後、念のため帰らずに待っていてくださいと言われたので大人しくしていることにした。お店で買ったチョコレートの袋を見て、今頃は買ってきたチョコレートを家で美味しく頂いているはずなのにとため息をつく。
「xxxさん、その袋なあに?」
 いつのまにかコナン君が隣にいたらしい。
「そこのお店で買ったチョコレートだよ。溶けていないか心配だったんだけど、保冷バッグと保冷剤もあるからもう少しくらいなら大丈夫かなって」
「へー! それ保冷バッグだったんだ」
 きちんとチョコレートブランドのロゴが入っているこれは、しっかりとした布製のバッグにしか見えない。内側を見なければ保冷機能があるとは気が付かないだろう。
「そうだよ。一定の金額以上買うと、これに入れてくれるんだ」
 私がそう言うとコナン君はハッと息を飲んだ。どうかしたの、と声をかけるもコナン君はxxxさんありがとう、とそれだけ言うとどこかへ駆け出してしまった。


「犯人はあなたです。xxxxxさん」
 毛利先生にそう言われ、どうしてそうなったんだと心臓が大きく脈打った。もちろん犯人は私ではないのだが、いきなりのことに声を出せないでいると毛利先生が続ける。
「被害者から発見された毒は、すぐに救急車を呼べば助かるように調整されていました。おそらく殺すつもりなど最初から無かったのでしょう。少し苦しめばいい、とね。xxさん、あなたは被害者が倒れてすぐに救急車を呼んだそうですね」
 迅速に治療をすれば助かると知っていたのではないですか、と疑う眼差しにどうすることもできなかった。辛うじて、口だけが違いますとゆっくり動く。
「それに、被害者が倒れたのはあなたと接触した直後です。ぶつかる振りをしてその隙に毒物を吸わせたのではないですか」
 毛利先生は私の隣に歩を進め、自信たっぷりと言い切った。違います、だって証拠も動機もないでしょう。震える声でやっとそう告げる。コナン君がそうだよと援護射撃を送ってくれる。途端に毛利先生の足元がふらついた。
「毛利くん、いつものかね!?」
 目暮警部と名乗った男性が期待したように毛利先生を見た。他の人々も驚き半分で見守っている。毛利先生は階段に腰かけると、眠ったように話し始めた。
「……と、私も最初はそう思いました」
「なんだ、彼女が犯人ではなかったのかね」
「犯人は別にいます、そう――」
 毛利先生は私の横に立っていた男性を名指しした。そこからは快進撃だ。彼が試食のチョコレートに毒を仕込み、上手い事彼女にお目当てのチョコレート片を食べさせた。そのトリックやアリバイ工作も説明され、感心してしまった。
 凄いなあ、と探偵さんたちを見ていると急にぐっと後から首に腕が回された。
「全員動くな! この女がどうなってもいいのか」
 突然のことで、誰も反応できなかった。男の手にはナイフが握られており、私にそれをつきつけている。
 焦るな、大丈夫、こんな小さいナイフじゃ死ぬことなんてない。心の中でそう唱えているといくらか落ち着くことができた。
 いくらか冷静になったところで周囲を見回す余裕ができた。刑事さん達も探偵さん達も、そんなに離れた距離にはいない。私が一瞬でも彼から抜け出すことができたなら、きっと取り押さえてくれるだろう。
 ちょうど先日、簡単な護身術を友達から習っていて良かった。とはいえ、本当に少し習っただけで実際に使えるかどうかは今試してみないと分からないのだが。一か八かだ、と覚悟を決めて男の腕を胸元に寄せて出来た隙間から頭をくぐらせる。よし、抜け出すことは出来た。私が犯人から一歩離れた途端に安室さんが彼にとびかかり、あっという間に拘束してしまった。
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