Re:早く帰りたい



 娘である毛利蘭の付き添いという形でデパートのチョコレートフェアへ行くという毛利小五郎に付いていくことになった。規模と場所から考えて、xxxも来ているはずだ。会話もスケジュールも把握している僕が知らないということは、来ているとしても誰かと一緒ではなく1人だろう。そう考えていると視界の端にxxxが移った。
 僕は自分が彼女の傍に居ないということよりも、彼女の傍に自分以外が居ることが許せない性分だ。今日彼女が1人で来たのも、それを気にしての事かもしれない。
 xxxは大小様々なチョコレートを買い込んでいる。きっと自分用や職場用、あとは手土産だろう。周りに気付かれないように買い物の内容を遠目で確かめれば、ウイスキーによく合うと有名なアソートも買っている。加えてその商品名はゼロというらしい。
「まったく、そんなものを買っていつ渡す気ですか」
 自惚れかもしれないが、それは僕用だろう。いや、絶対にそうだ。一緒に来たコナン君に思わず洩れた言葉を聞き返されてしまったが、何でもないよと彼女から視線を逸らした。


「だ、誰かこっちに来て手伝ってください! 女性が急に倒れて……」
 少し遠くから聞こえたxxxの声に、全速力で駆け出した。コナン君も同時に声の方へ走り出す。夕方から少し過ぎた時間とはいえ人が多く、僕が上手く間を縫うよりも体の小さいコナン君の方が速いようだった。声を聞くに彼女が危険なわけではないようなので、遠くから彼女の無事がわかれば良い。後から毛利先生や蘭さんもついてきていた。
 息も絶え絶えにxxxの方を見ると、コナン君はすでにxxxと話していた。小学生に目線を合わせるためにしゃがんでいるのだろうが、そのせいでスカートの丈が少し短く見える。無防備すぎるんじゃないか、もっと気を付けてくれ。僕以外は彼女の隣に立たないでほしいと噛んだ奥歯がギリと鳴った。こんな時にxxxを傍へ引き寄せられない状況が歯がゆかった。
 その横で医務室に運ばれる女性がいたが、症状から見て神経毒か何かだ。おそらくまだ生きており救急隊が早めに到着すれば、最悪でも軽い後遺症で済むだろう。デパ地下は警察によって封鎖されているのだから、犯人はあとでゆっくり調べ上げれば良い。それよりもxxxだ。あまり僕を心配させたり妬かせたりしないでくれ。
 蘭さんがコナン君を回収しに行き、その成り行きで安室透としてxxxとの初対面を遂げることになった。安室さんだなんて他人行儀に呼ばれるのは惜しい気もするが、呼んでさえもらえないよりずっと良い。僕のxxxを見てしまりの無い表情をする毛利先生に、顔をしかめないよう取り繕った。

 xxxが事情聴取を受けている間、誰にも気づかれないようそっとxxxの買ったチョコレートの袋に近寄った。一番上には、例のゼロが乗っている。クスリと抑えきれない笑みをそのままに、自分もxxxのためにと買ったチョコレートと袋の一番上のそれを取り換えた。
 何食わぬ顔で捜査に戻る。容疑者は販売員と菓子職人、そしてxxxということになった。僕はxxxが犯人なはずはないと断言できるのだが、xxxと今日会ったばかりのコナン君たちにとっては十分に容疑者たりえる。しかし順調に捜査も進んでいるし、小さな名探偵君にも犯人の目途はたったらしい。先ほどからしきりに僕の方を気にしているxxxが可愛い。2人きりであれば永遠に見つめてくれていても構わないのだが、今は都合が悪い。いっそ恋人だと公表してしまおうか。


「犯人はあなたです。xxxxxさん」
 デパートの地下に響く毛利先生の声に、柄にもなく「は?」と眉を吊り上げたのは致し方ないだろう。
 止める間もなく、毛利先生のxxxを責める推理が披露される。近くにいるコナン君も焦っているので彼にも真犯人がわかっているのだろう。証拠も動機もないと震える声でやっと答えるxxxに居てもたってもいられず口を挟もうとしたとき、眠りの小五郎が始まった。
 それからは僕の推理と同じだった。良かったと安堵してしまい、僕としたことが少々気を抜いていたらしい。追い詰められて逆上した犯人が、xxxの背後をとりナイフを突きつけるのに反応できなかった。その汚い手で彼女に触るなと叫ぶことが出来たらどんなに楽だろうか。叫べてもそうでなくても、腸が煮えくり返るのは変わらないが。
 自分の無力さを痛感していると、xxxが僕を見て少し頷いた。そこで思い出す。彼女はつい先日、お遊び程度ではあるが生活安全局の友人にクラヴマガを習っていた。そこで後ろから拘束されたときの対応を練習していたのだ。僕も頷きを返すと、xxxは覚悟を決めたように犯人の腕をつかんだ。首尾よく彼女が犯人から一歩離れたのを確認し、ここぞと飛び掛かった。
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