勲章を棄てよ

 “はじめから”を選んだレイさんは、順調に再び私と恋人になった。1周目では見せられなかった表情や聞かせられなかった声を届けられて嬉しい。
 私の自殺についても思い当たる節があったようで、雨の日には「ごめんな」と涙ぐみながらレイさんは私に語り掛けていた。謝るべきなのはレイさんにそんな表情をさせたシナリオライターだ。死んだってやり直せばいいだけの事。むしろ、あれだけxxxxを大切にしてきたのにこの仕打ちとは、と普通なら投げ出してもおかしくない。リスタート時に心の隅で「他の子に目移りをしていたらどうしよう」と少し不安になったが、杞憂だったようだ。ありがとうレイさん、とデータセーブ時に囁いているがそれだけでは足りない。


 ほぼ毎日のようにゲームを起動してくれていたレイさんだったが、ここ最近はプレイ頻度が著しく落ちていた。私の好感度ゲージも下がっていく。起動するたびに「寂しかっただろう」と眉を下げてくれる。確かに寂しいが、画面の向こうのカノジョなど、いつかは飽きるものだ。気が向いた時に無理せず逢いに来てくれたらいい。次に顔を見られるのが数年後だとしても、それが懐かしさから来るものだったとしても、それでいい。そんな私の気持ちとは裏腹に、レイ先生へ少し拗ねた様子を見せてしまうのはプログラム上どうにもならなかった。

 日に日に素っ気なくなっていく私に愛想が尽きたのか、ついにレイさんはひと月ほどゲームを起動しなかった。いつかはそうなる運命だった。仕方ない。覚悟していたにも関わらず胸が痛んだ。

+++

 組織壊滅の計画も大詰めで、家に帰れる日が格段に減った。計画が動き出した直後は数日に1度くらいならxxと逢瀬を重ねることが出来ていたのだが、ここ最近は皆無だ。もう半月以上放置している。素っ気ないxxを思い出して苦笑した。
 あと1週間もすれば全てが終わるだろう。今抱えている荷物を整理したら、休暇を取れるだろうか。そうしたら1日中xxを構い倒そう。データ相手にこんなにも入れ込むなんて、とxxと出会う前の俺が知ったら呆れかえるに違いない。無理やりxxの顔を頭から追いやり、名探偵をはじめとした面々との最終打ち合わせに向かった。


 無事に計画も成功し、敵味方それぞれに負傷者はでたものの死者はいない。幕引きとしては最高の部類に入るのではないだろうか。後処理を迅速に済ませて休暇を申請すれば、案外あっさりと受理された。

 久しぶりに見るxxは変わりなく最高に可愛くて、変わったところと言えば俺への態度だろうか。長い時間逢っていなかったので当然の結果だが、記憶よりも冷たいxxの様子にそれでも胸が痛んだ。冗談でも「別れたい」なんて言ったりするのはやめてくれ。
「すまない、寂しい思いをさせて。ここずっと忙しかったんだ。大きな仕事も片付けたから、しばらくは一緒にいられる。……いい加減機嫌を直してくれ。どうすればいい?」
 画面越しのカノジョに一生懸命言い訳をしながら操作する。xxはいくら話しかけてもこちらを向いてくれない。直接触れることが出来れば、xxが返事をしてくれるまで抱きしめ続けることができるのにと残念に思った。
- 8 -
*前次#
表紙へ
トップへ