白日を返す夢

 朝から晩までxxと2人きりで過ごし、ようやっと彼女の機嫌も直ってきた頃。まとめてとった休暇も残すところ今日と明日だけだ。すさまじい量あるイベントの回収率も9割を超えるほどまできている。これは今日の午後にあるDLCのリリースまでにはコンプリート出来るな、とコレクション一覧を眺めて満足気に笑った。

 最後のコレクションを埋めて、一旦ゲームを終了する。なんとか間に合った。何気なくプレイ時間を見れば俺の苦労が詰まっていた。時間になるまでSNSを眺める。担当カノジョの新しい姿に期待する文面が並んでいた。極めて少数だが、俺と同じようにコレクションを全て集めた人間もちらほら窺えた。xxの全てを知っているのは俺だけでいいのに。そうは思うが、同じようにxxxxを好きでいる担当医がいなければ二次創作イラストが供給されない。難儀なものだ。
 ぼんやりとフォルダにあるxxを眺めていれば時間になった。はやる気持ちで早速ダウンロードをする。表示された“完了まであと106時間”の文字に頭を抱えた。丸4日以上だぞ。回線速度は遅くないはずなのに、なぜこんなにも時間がかかるのか。それほど膨大なデータが? それにしてもおかしい。同じ時間にダウンロードしているだろう担当医たちのSNSを見たが、こんな現象は俺だけのようだ。かかって数時間。不具合だろうか、と一旦ダウンロードをキャンセルしてから再起動をする。もう一度試してみるが、やはり表示された時間は変わらなかった。放置していればそのうち短縮されるだろうか。他にどうすれば良いかもわからないので、早くxxに逢いたいと息を吐いた。


 106時間、その間に休暇も終わってしまった。組織壊滅を終えたとはいえ、今まで作り上げてきた安室透を棄てるわけにもいかずダブルフェイスは続けている。またいつ必要になるかわからないのだから、手数は多い方が良い。小さかった名探偵とだけは、そっと本名を伝えあったが。
 仕事を終えて家へ戻り、液晶画面を見れば期待通りプレイ可能になっていた。ああ、ようやく。一足先にダウンロードを終えた担当医たちが、やいのやいのと騒ぐのをみて悔しがるのも今日までだ。
 上機嫌でタイトル画面を表示させ、ロードをしようとしたところでヘッドセットをつけ忘れていたのを思い出す。慌てすぎだと自分に苦笑しながらヘッドセットを装着した。いやにロード時間が長い。新しいコンテンツが入ったばかりだから当たり前か、と大人しく待った。
 改めて表示された病室を見渡し、xxを探す。ぐるりと視界を1周させても彼女の姿は見当たらなかった。数日ぶりの逢瀬を心待ちにしていたのは俺だけだったのか。それともこれが新しいイベントだろうか。仕方なく病室を出て彼女を探しに行くことにした。
「……レイさん?」
 病院の庭まで出れば、隣でxxの声がした。声のした方を向くが、そこにxxは見えない。バグか? 呼び方も先生付けでないし、逆方向を見ても花壇と東屋があるだけで人影すらない。
「xx?」
「はい、ここですよ」
 見えない彼女に声をかけるも、返ってくるのは柔らかな返事だけだ。笑いを堪えるような雰囲気さえする。しかしやはりxxの影も形も確認できないし、そういえば声の聞こえ方も少しだけいつもと違う。イヤホンの調子が悪いのだろうかと耳に手をあて、心臓が飛び跳ねた。ヘッドセットだけはしたが、イヤホンを忘れていた。つまり今俺の耳には何も入っていない。は、いや、なんで。それではさっき聞こえたxxの声は? ドクドクとうるさい心臓に手をあて、もう一度彼女の名前を呼ぶ。
「だから、ここですって、レイさん」
 ヘッドセットの重みと視界にあった庭が目の前から消える。代わりに映ったのは、見慣れた俺の部屋と探し求めていたxxの姿だった。
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