ジェット あの教師と、どういう関係なの。 あれから何度もxx先輩にそう尋ねようとしたけれど、遂げることは出来なかった。薄々分かっていたし、それを聞くのが怖かったから。聞いてしまったら、xx先輩とのこれからが壊されてしまう気がしたから。臆病なボクはあの教師を忘却の彼方へ追いやってしまうことしかできなかった。 「風が気持ちいいね」 xx先輩が靡く髪を右手で抑えて笑った。目の前に広がる砂浜と海が、夕焼けの色で染まっている。ボクの頬にも、今は同じ色がある気がした。 「気に入ったかい?」 ニッと八重歯を見せてxx先輩に話しかける。彼女は満足そうに頷いてから「ありがとう」と再び海を眺めた。 「いいよ。xx先輩が喜んでくれたなら、ボクも嬉しいし」 学校終わり、偶然xx先輩を見かけた。元気のない様子だったから、この後予定が何もないならばと半ば強引にバイクへ乗せてきたのだが、間違いではなかったようだ。ここへ来るまでも彼女のスカートがめくり上がりやしないかとハラハラしたり、背中の温もりと回された腕にドキドキしたりだった。 「嫌だったら、べつに話さなくてもいいけど」 ボクはそう前置きをしてから下を向いて口を開いた。 「何かあったの?」 xx先輩が困っているのならば出来る限り力になりたいと思っての言葉だった。しかし、すぐに後悔する。随分と無遠慮な質問だったなという反省と、もうひとつ。彼女が落ち込んでいる理由の検討はついているのだ。そしてその原因を作ったのはボクだった。絶対にそれを知られるわけにはいかないし、悟らせやしないけれど。 「……振られちゃったんだ」 ぽつり。xx先輩が小さくもらした。ともすれば波の音にそのまま攫われてしまいそうな、そんな弱さがあった。 「遠くに行くからね、もう会えないんだって。終わりにしようって」 くしゃり。xx先輩の顔が切なげに歪む。台詞を紡ぐ声も段々と大きく震えて、最後には泣いているようだった。 ああ、綺麗だな。 場違いにもそう思った。ボクの所為でこんな顔をしてくれている。あの教師を思って、というところが少し、いや大分気に食わないけれど。ふうん、やっぱりそういう関係だったんだ。まあいいや、あいつはもう彼女の傍にいないのだし。 慰めなければならないのに、それも忘れてただただ彼女に魅入る。瞳に張られた透明の膜から、あふれた雫が彼女の頬を伝った。なんだか勿体なくて、手を伸ばす。ボクの指が彼女の肌を傷つけやしないかと怯えながら、そっと海味を拭った。 「そっか」 ボクはそれだけ言って、xx先輩の手をぎゅっと包んで指を絡める。xx先輩は一瞬驚いた顔をしたけれど、すぐにふわりと微笑んでくれた。振り払われなかった手に安堵する。 しばらく、日が沈むまではそうして二人で並んでいた。 「本当に、ありがとね。真純ちゃん」 xx先輩がボクをちらりと見た。耳にかけられた髪が垂れて、その隙間からは星のような明るい瞳が覗く。ゾクリとした。それを誤魔化すように、ボクはすくりと立ち上がる。xx先輩に手を伸ばして「帰ろうか」と誘った。 街灯とヘッドライトの光だけが夜道を照らしている。ブロロという大きな音に恥じない風を感じながら、行きと同じく背後の彼女にどぎまぎする。 「だいすき」 呟いたボクの声はヘルメットの中だけで終わった。 back to top |