助けの手
「来ないで! 罠だよ!」
「え……?」
コレットが叫ぶとロイドは足を止めた。2人の間にロディルが割り込む。
その姿を見て、プレセアが斧を取る。
「今まで私を利用してきたこと……許せません! コレットさんとレイラさんを返しなさい!」
ロディルに斧を振り下ろすが、ロディルの姿は掻き消えるだけだった。
「幻……!?」
ロディル自身は、この場にはいないということ。
「フォッフォッフォッ。そんな出来損ないの神子などくれてやるわい! 道理でユグドラシル様が放置しておく訳じゃ」
「出来損ないだと!?」
「そうじゃ。その罪深い神子では我が魔導砲の肥やしにもならんわい。世界も救えぬ、マーテル様にも同化せぬ。挙げ句こうして仲間を危機に陥れる。神子はまさに愚かなる罪人という訳ですなぁ」
コレットに対する物言いに、皆怒りを募らせる。
「コレットさんに……ありもしない罪をなすりつけないで!」
「そうだ。罪を背負うのは私だけでいい。私と、そして愚劣な貴様こそが罪そのもの! 愚かなる者よ、私と共に地獄に堕ちるがいい!」
「わしが愚かだと? ふざけるでない。この劣悪種共が!」
ロディルの態度に、皆詰め寄る。
「みんな、逃げて!」
「わしの可愛い子供たちよ、劣悪種共を食い散らかすがいい」
ロディルの姿は完全に消えてしまい、代わりに飛竜が飛んでくる。
「戦っちゃだめ! レイラを連れて逃げて!」
このままでは仕掛けが作動してロイドたちの命を奪ってしまう。その前に、とコレットは叫ぶ。
「飛竜。竜族亜種。肉食を好み動くものを捕獲し、餌とする。この狭い足場で逃げ切る確率は1パーセントです」
「冗談だろぉ! 死ぬのはごめんだぜぇ!」
逃げようにも逃げられない。
「食われる前に倒せばいいんだよ!」
「真理だな。このまま大人しく食物連鎖の中に沈むこともあるまい」
飛竜に挑む。無謀だが、それしか生き残る手はない。
コレットは俯いてしまう。飛竜に勝ったとしても、ロイドたちが死んでしまう。
「レイラ、立てるか?」
ずっと蹲ったままのレイラにロイドは手を差しのべる。
「だめっ!」
「うわっ!」
レイラはロイドに剣を突きつけた。目の前にしても、実感が沸かない。信じられない、ある筈のない、あってはならない状況に現実感がない。
「……敵……排除する……」
「レイラ、どうしたんだよ!」
「よく分からないの……ただ、ロディルはレイラの負の感情にクルシスの輝石が反応して、要の紋でも抑えられなくなってるって言ってた」
その背に水色の翼が輝いているレイラの瞳には光がない。その様子から以前のコレットやプレセアと同じように心を失っているのは確かだろう。
「くそっ、どうなってるんだ!」
半ば混乱したまま、ロイドはレイラの剣を防ぐ。
「ロイド、飛竜は我々に任せよ。お前はレイラを止めるのだ!」
「あ、ああ!」
なるべく傷つけないようにしたいが、どうしたら止まるかなんて分からない。それでも、ロイドは剣を構えレイラと対峙する。
「絶対に元に戻してやるからな、レイラ!」
レイラは何も答えず、眉一つ動かさず、ただ目の前のものを排除しようとする。