明かす時

レイラは自分のクルシスの輝石を見つめていた。大きな感情の揺らぎから要の紋の効力すら抑え込み、レイラの心を支配した存在。これをまた使い続けて同じことが起きないか、不安が湧き上がる。

「ねえ、レイラ」

コレットがおずおずと話しかける。

「ロディルはそのエクスフィアのこと、クルシスの輝石だって言っていたけれど……」
「…………」

もはや隠し通すのは限界か、と目を閉じ頷く。

「……そうだよ」

コレットの瞳が揺らぐ。

「そんな顔しなくたって、アンタもプレセアみたいに騙されて付けられてたんだろ? レイラがクルシスの連中と一緒なわけないじゃないか」

しいなの口ぶりから、レイラのいない間にどんなやりとりが為されていたのか、おおよそ察してしまった。

「…………」
「あなたはもう分かっているでしょう? 自分が何者か」

推測ではなく、断定。これ以上の誤魔化しはもはや無意味だろう。

「……はい」

はっきりと肯定する。

「それじゃあ、話してもらいましょうか」

レイラは閉じていた目を開き、改めて皆の、一人ひとりの顔を見渡してから、口を開く。

「……恐らくは、先生の推測通り。その様子だと、皆も聞かされてるんだよね?」
「うん。信じたくなかったけど……」
「私は神の機関、クルシスに属する者……最初にイセリアに来たのも、コレットの監視のためだった。けれど……不測の事態が起きてしまった」
「記憶がなくなったことだな」
「そう。私は不慮の事故で記憶を失ってしまった。それでも、コレットの護衛の任に就いて旅に同行できた。全ては偶然だったけど……そして、救いの塔に辿りついて、私は全てを思い出してしまった……」

酷く混乱して、倒れて、そのままデリス・カーラーンに連れ戻されて。

「記憶を取り戻し、帰ってきた私に下りた次の任務は、コレットの回収だった……」

そして、レイラはその命令に反して、クルシスを裏切った。けど、それを言って、信じてもらえるだろうか。
顔を伏せて黙り込んでしまったレイラに、ロイドが声をかける。

「もういい、レイラ。お前はコレットを連れていかずに守ろうとしてくれた。コレットが元に戻った時に喜んでくれた。それで十分だ」

ロイドの言葉に顔を上げて目を丸くする。

「ここにいるのは、クルシスのレイラじゃない。俺たちと一緒に旅をした、俺たちの仲間のレイラだ」

皆、その言葉に肯定する。

「そうさ。あんたはあたしたちの大事な仲間サ。けど……」
「わ、ひいな、やめへ。いはい、いはい」

しいなに両頬を抓られる。ちょっぴり痛い。

「そんな大事なことをずっと黙ってた罰だよ。あたしたちがどれだけ心配したと思ってるんだ」

黙ってただけでこれでは仮に本当に裏切ったりしてたならただでは済まなさそうだ。
ようやく離してくれた頃にはレイラの頬は真っ赤だ。しかも痛い。頬だけじゃなく心も。その様子に皆から笑いが零れる。

「あはは、レイラったら変なの!」
「もう……」

先程までの緊張はすっかりどこかへ吹き飛んでしまっていた。

「レイラさん、何だか楽しそうです」
「うむ。打ち明けたことで肩の荷が降りたためだろう」

その様子をどこか斜めに構えて見つめる1人。

「……どいつもこいつも、お人好しなことで」

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