氷の精霊

フラノールの近くにある氷の神殿。凄まじい冷気に凍えそうになりながらも祭壇まで辿り着く。

「契約の資格を持つ者。我が名はセルシウス。かつての勇者ミトスと契約する者」

神殿の冷気にぴったりの、冷たく鋭い声が問いかける。

「セルシウスがミトスとの契約を破棄し、我と契約することを望む」
「私と? 面白い。お前が私を扱えるのか、試してみるがいい」

そう言って姿を現したのはフェンリルと呼ばれる獣を従えた女性型の精霊。体術と氷の魔術を使いこなし戦う。

彼女を打ち倒せば、セルシウスは心なしか嬉しそうな様子になる。

「見事だ。私の冷気も、お前たちの前では南風のようなものか……。さあ、誓いを立てよ。私を使役できるような誓いを!」
「2つの世界が、お互いを犠牲にしなくてもいい世界を作るために、セルシウスの力を貸してほしい」
「承知した。私の力、見事使いこなしてみせよ」

契約の証となり、セルシウスはしいなの手の中に収まる。

「イフリートと契約すれば、マナの流れを分断できるぞ。よし、次の精霊も頼むぞ、しいな!」
「はいよ!」

強く頷くしいなは、最初の頃見せていた恐れを微塵も感じさせない、自信に満ち溢れていた。

「セルシウス様〜! クールビューティー」
「……あなたって、相手が女性の形さえしていれば、何でもいいのねぇ」
「いくら美人の姿を取っているとはいえ……ね……」

セルシウスの姿に鼻の下を伸ばすゼロスにリフィルらは些か呆れる。

「ああ、こいつは歩くわいせつ物だからね」
「どういう意味だ」
「文字通りだよ」
「ん、待てよ? 俺さまが男の色気を放ってるって言いたいんだな」
「何が色気だい、この色魔」
「いやいやそんなそんな、はっはっはっ」

今にも手を上げそうなしいなにゼロスは笑って誤魔化そうとする。
そこに飛んできた言葉にロイドが疑問を口にした。

「先生、色魔ってなんだ? 食えるのか?」
「食べられないと思うけど……」
「色魔……。沢山の女の人を弄ぶ不誠実な男性のこと」

呆れて脱力するリフィルをよそに、プレセアが淡々と解説してやった。するとロイドもピンときて、

「なんだ、ゼロスのことか」
「……そう言われると、面白くねーなー」
「……本当のことだし、仕方ないと思う」

少しテンションの下がったゼロスにレイラは軽く追い討ちをかけておく。

そんなくだらない話で軽く盛り上がりながら神殿を出ようとしたら、空から大きな音が響く。
見上げれば、さっきまで天気もよかったのに、遠くで巨大な雷が落ちているのが見えた。

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