失踪
あのあと、ゼロスはレイラを失笑した。
――見れば分かるだろ、と。
大方、皆が寝静まった頃合を見て、クルシスへの定期報告か何かをしていたのだろう。
互いに話すことがあるわけでもない。そのままゼロスは何事もなかったかのように中に入っていった。
レイラは視線を空に移し星を見る。
(ひとつ、ふたつ……)
月が輝いていて思ったより見えない。
明日は、満月だろう。
それからレイラも何とか眠りに就いた。
とはいえやはり深くは眠れず、朝日が登ってきた頃に起きてしまったが。
「ダメだこりゃ……」
顔を洗おうと水場に行き、水面に映った自分の顔を見てため息をつく。
見事に目の下に隈ができている。
これではリフィルに叱られてしまうなどと考えていた時に、はたと気がついた。
教師という職業柄リフィルは早起きだ。いつもならこの時間帯にはもうコーヒーの香りを漂わせている。
それなのに今日はそれがない。嫌な予感がして寝室に戻る。
「先生……!」
焦りから乱暴な音を立ててドアを開ける。
昨晩、確かにいた筈の場所にリフィルの姿はなく。代わりに1枚の紙が置かれていた。
「……!」
「どうしたんだい、こんな早くから」
レイラが音を立てたことでしいなたち同室の面々が目を覚ます。
「みんな、先生が……!」
レイラは震える手でその紙を手に取り皆に見せる。
どうして、今日は眠りが浅かったのに気付けなかったのだろう。いっそ無理に眠らずに夜明けまで起きていれば。
そんな考えに頭の中を支配される。
リフィルの残した書置きには簡潔な文だけ記されていた。
――調べたいことがあるの。少し別行動をとらせてもらうけど心配しないで。
皆を叩き起して、リフィルがいなくなった旨を説明する。
するとタバサが、夜明け前にレアバードが南へ飛び立つのを見たと言う。
「南というとアルタミラの方か……」
「そーいえば、昨日のリフィル様、ちょ〜っと様子がおかしかったよな。異界の扉がどうとかって……」
皆リフィルの様子を案じる。リフィルを追いかける方向で話がまとまると、
「あの……ボクも一緒に連れて行って貰えませんか」
「何言ってるの、危ないんだよ」
ミトスの提案にジーニアスが渋い顔になるが、ミトスはどうしても初めての同族が心配で仕方ない様子だ。
「よし、着いて来い」
ロイドは賛成する。ミトスが丁寧に礼を言えば、友達だから気軽に呼んでいい、と照れくさそうに言う。
ジーニアスのレアバードに一緒に乗せてやることになった。二人とも体格が小さいから、乗せるのは問題ない。
ミトスも加えて、リフィルを探しに。異界の扉と彼女に何の関係があるのかは分からないが、一刻も早く見つけなくては。
何しろ今夜は満月。異界の扉が開く日だ。