憎しみ

「ようやくチャンスが巡ってきた。今こそ両親の仇をとらせてもらう」

気が付けば、教皇騎士団に周囲を包囲されていた。明らかにくちなわはこちらに敵意を持っている。

「……両親の仇?」
「そうだ。お前がヴォルトを暴走させたために巻き込まれて死んだ両親と里の仲間のためにも、お前に死んでもらう」
「……そ、そんなっ!」
「それは事故だったんだろ! どうして今頃になって」
「事故だと!?」

くちなわが苛立ち、足を強く踏み締める。

「こいつが精霊と契約できない出来損ないならまだ我慢もしたさ。それがどうだ! シルヴァラントの神子暗殺に失敗して、ミズホを危機に陥れて、そのくせ本人はといえばちゃっかり精霊と契約している」
「それは違います!」

しいなは苦しむ人のために、コレットのために、トラウマを乗り越えた。それを言おうとしてもくちなわは聞く耳を持たない。

「違わねぇよ。最初の契約の時は手を抜いたんだ。そして親父たちを殺した」
「手なんか抜いてないよ! あたしは……」
「黙れ!」

有無を言わさず、教皇騎士団が襲いかかってくる。

「……馬鹿みたい」

くちなわの態度に、レイラは1人吐き捨てる。
最初の契約の時は、しいなも、くちなわも、まだ力のない子供だった筈。時が経って力をつけたという、単純な事実にも気が付かないなんて。
憎しみに囚われて、彼は完全に冷静な思考を失っている。
どうにか冷静にできないかとレイラも考えようとするけど、

「くそっ、数が多くて話にならねぇ!」

倒せど倒せども襲ってくる教皇騎士団が、考える暇も与えてくれない。

「くちなわ! お願いだよ。ロイドたちは巻き込まないでくれ。あたしが憎いんだろ? だったらあたしだけ殺せばいいじゃないか」
「しいな!?」
「何バカなこと言ってるんだ!」
「いいんだ! くちなわ……頼むよ!」

しいなの懇願に、くちなわは頷く。彼の目的はあくまでもしいなだからか。

「よし、いいだろう」

しいなも、覚悟を決め、くちなわの前に歩み出る。
その傍ら、月の光が扉に降り注ぎ、入口を開いていた。

「……冗談じゃねーぞ! アホしいなが!」

ゼロスが咄嗟にしいなの腕を取り、引っ張り出す。

「ロイド! 来い!」

真っ先に、しいなを連れて扉に飛び込んで行った。

「みんな! 異界の扉へ!」

周囲を囲まれたこの状況での、唯一の逃げ場。ゼロスたちの後を追って皆次々に異界の扉へと駆け込んだ。

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