提案

「レネゲード!」

いざ牧場に着いてみると、そこにいたのはディザイアンではなかった。

「そうか。ニールたちはディザイアンとレネゲードの区別が付いてないんだ」

牧場跡をうろつくディザイアン。その正体は、よく似た姿をしたレネゲードのことだったのだ。
ボータは特に敵意を向けるでもなく、言葉をかける。

「お前達を待っていた」
「おかしな話だな。我々がここに向かうことが予想できたというのか?」

皆がシルヴァラントまで戻ってきたのは偶然だ。それなのにこの場所で待っていたというのは不自然。

「さぁ、どうだろうな。それより我々と手を組まないか」
「……呆れたこと。ロイドやコレットを散々狙ってきてムシがいいとは思わなくて」

誘われてはいそうですか、と乗るほどレネゲードを信用できるわけがない。

「あの時と今では状況が違う」
「ユアン!」

物陰から姿を現したユアンはある問いかけをする。

「大樹カーラーンを知っているか?」
「聖地カーラーンにあったっていう伝説の大樹か? 無限にマナを生み出す生命の木だ」

ゼロスの解答に、コレットが首を傾げる。

「それはおとぎ話じゃないんですか」
「大樹カーラーンは実在した。しかし、古代カーラーン大戦によるマナの枯渇で枯れ、今では聖地カーラーンに種子を残しているだけだ」
「最後の封印に、大樹の種子が!?」
「我々はその種子を大いなる実りと呼んでいる」

大いなる実り、クルシスにとって最も大切なものとして伝えられているもの。
大樹の種子ならば、確かに大切なのも頷ける。
そして、それだけじゃなく……。

「2つの世界を1つに戻すためには大いなる実りが必要不可欠だ」

思わぬ言葉に、皆に驚愕が走る。

「2つの世界を1つに戻すだと!?」
「私はかつて言った筈だ。ユグドラシルが2つの世界を作ったと。元々世界は1つだった。それをユグドラシルが世界を2つに引き裂き、歪めた」

ユアンの解説に、レイラは再び考え込む。この様子だと、嘘を言ってるとは思えない。かつて教わったことと何一つ違いがない説明を、ユアンから再び聞かされている以上は。
再生の神子の儀式で、僅かなマナを奪いあう。それが繰り返されることでマナの不足しているこの世界は辛うじて保たれている。
大いなる実りが発芽してしまえば、世界はマナが満ちて、マナの奪い合いがなくても世界は生きていける。
そうすれば、神子が苦しむこともなくなる。
しかし、大いなる実りは死にかけている。それを救い発芽させるには、マナを大量に照射させる。
だが、今地上にそのようなマナはない。大量のマナがあれば、そもそも大いなる実りが必要がなく、一見本末転倒だ。
けど確かに、地上にはないけれど、デリス・カーラーンがある。あれは巨大なマナの塊でできた彗星。それを大地の遥か上空に繋ぎ止めている。それがあれば、問題ない。

「それが本当なら、どうしてユグドラシルは大樹を復活させないんだ!」

いつでも復活できるのにしないのは、マーテルのためだと言う。デリス・カーラーンのマナを全て、大いなる実りに寄生しているマーテルの心を生かすために使っているからだと。
大いなる実りが目覚めてしまえば、マーテルは消滅する。だから、それを防ぐため精霊の楔で護っていると言う。
そのために、レネゲードはマーテルの復活を阻止してきた。

「我々は大いなる実りを発芽させる。その結果、マーテルは種子に取り込まれ消滅するだろう。そして……」
「大樹カーラーンが……復活する」
「もしそうなったら、2つの世界は元に戻るんですか?」
「……それは分からんが、種子が消滅すれば世界が滅びる」

少なくとも、マーテルの復活だけは、阻止しなくてはならない。

「だから、マーテル様には涙を飲んで消えてもらうってか」
「マーテルは既に死んでいるのだ。デリス・カーラーンのマナがなければとうに心も消えていた」

そこまでして、マーテル復活を遂行しようとするユグドラシルに、むしろ奇妙さすら覚える。

「どうしてユグドラシルはマーテルに拘っているの?」
「それはどうでもいいことだ。問題は大いなる実りを発芽させること」

ユグドラシルの行動の理由についてユアンは答えを教えない。

「今まで大いなる実りは衰退世界の精霊によって守護されてきた」
「マナの楔だな」
「そう。そして楔は抜け始め大いなる実りの守りは弱まっている」

その理由は、ロイドたちが一番よく分かっている。

「私たちが、2つの世界の精霊と契約をしているから……ですね」
「成程。だから私たちと手を組みたいのね。私たちにはしいなという召喚士がいる」
「利害の一致、ということですね」

ここに来て、互いの目的が一致したから、レネゲードは今、話を持ちかけたということ。
だけど、まだ手放しに信用できない疑念はある。

「ユアン。お前はクルシスか? それともレネゲードなのか?」
「……私はクルシスであり、レネゲードの党首でもある」

つまりユアンはクルシスの四大天使に君臨しながら、裏ではその目的を阻止しようとしている。

「獅子身中の虫……か?」
「要するに裏切り者だ」
「お前たちも、似たような立場の者を抱えているだろう。人のことは言えまい」
「…………」

ユアンの視線の先には、レイラ。クルシスを裏切ったのはレイラとて同じだと言いたいげに。
レイラは、未だ晴れぬ疑問を口にする。

「……ユアン様、あなたの目的は分かりました。でも……私やロイドを狙っていたことの理由がつきません」

レイラが記憶喪失に陥った元凶はユアンなのだ。それに対して恨み言を言うつもりはないが、未だ警戒を解くことはできない。レイラを襲い、ロイドを付け狙っていたことと目的が結びつかない以上は。

「……お前は自分の立場を全く理解していないようだな」
「……立場……?」

呆れたように吐き捨てるユアンに、更に疑問が深まる。クルシスに全く信用されず、あまつさえ裏切っても放置されているようなレイラが何だというのか。大樹の復活にレイラの存在が関わるなんて到底思えない。
訊いても答えは貰えないのだろう。今は関係の無いことだと。

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