小さな決意

宿で部屋を取り、寛ぐ。
窓から差し込む光はオレンジ色。もう間もなく日も暮れる頃合いだ。

「レイラ、気付いてたよね」

コレットの言いたいことは自ずと分かった。

「……ロイドのこと?」
「うん」

出発してからずっと浮かない顔だったコレットは更に表情を沈ませてしまう。

「ロイドのお母様、ディザイアンに殺されたんだって。それでロイドが、旅について行きたいって言ったの。お母様の仇と協定を結んでいる村で暮らせないからって」
「そうだったんだ……」
「でも、レイラも知ってる通り、再生の旅は危険な旅。ロイドを巻き込みたくなくて、私、嘘をついちゃったの」
「……嘘をついたことがバレたら、怒っただろうね」
「……それでも、ロイドを危険な目に遭わせたくなかったの。再生された世界で、平和に暮らしてほしくて」

レイラはぐ、と拳を握り締めた。彼女なりにロイドのことを思っての行動ということは分かる。でも――

「……コレットの心は優しくて、綺麗で、透き通ってる。
コレットが笑ってると、私も嬉しい。たとえ死ぬための旅でも、最後まであなたに笑っていてほしくて、護衛を引き受けたのに……これじゃ、意味がないよ。
ロイドに嘘ついて、一番悲しいのはあなたでしょ? 自分の心に嘘ついて、一番辛いのはあなたでしょ?」
「レイラ……」
「聖堂で言ってたでしょ? ロイドがいないと不安だって。それくらいにあの子はあなたの中で大きな存在になってるのに……。
お願い、自分の心に正直になって」

レイラはコレットの手を取り両手で包み込む。
包み込んだ手が暖かくて、コレットは今まで隠してきた心が堰をきって流れ出してきた。

「……本当は、今も潰れちゃいそうだよ。
ロイドがいたから、どんな辛いことでも乗り越えられると思えたの。でも、こうして離れると、心の中にぽっかり穴が空いたような感じがして、穴を埋めようとしても苦しくなるの……」
「コレット……!」

レイラは堪え切れず、コレットを抱きしめる。
こんなに細くて、小さな体は、なんて重い物を背負っているのだろう。
自らの運命を知っていて、どうしてこんなにも気丈に振る舞えるのだろう。本心がどうであっても。
そんなコレットの心を思うと、涙すら溢れてくる。

「私が、私があなたを守ってあげるから……ロイドの代わりにはなれないけど……」
「……ごめんね。ありがと、レイラ」

レイラの温もりが、優しさが、ロイドを思い出させて安心すると同時にかえって寂しくなるなんて、コレットは言える筈がなかった。

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