戻らないもの
近寄る前衛を肥大化した腕で叩き潰し、体力も増して。
ロディルは確かに、強力な力を得ていた。
だが――
「あんなのは……違う」
まだロディル自身は気付いてないけど、少しずつ奴の体が朽ちていこうとしている。
「……お望みだった、クルシスの輝石の力……見せてあげる」
自分が何をしたのか、思い知らせてやろう、とレイラは思う。
「……レイラ?」
「何するつもりだい!?」
徐に、水色の翼を広げたレイラを皆は訝しむ。
それを意に介さず、詠唱を始める。
「……輝く御名の許、地を這う穢れし魂に裁きの光を雨と降らせん……」
まるであの醜悪な化け物にぴったりだ。穢れし魂だなんて。
「……安息に眠れ、罪深き者よ」
安息な眠りなんて、勿体ない。
「……ジャッジメント!」
降り注ぐ裁きの光はロディルにダメージを与える。
似ても似つかぬ力に、ロディルはどう思うか、分からない。
実際、レイラの意図に特に気付いてないように、そのまま戦闘は続いていく。
「…………」
ロディルが詠唱もなく魔術を放ってくる。
「うっ!?」
「きゃああっ!」
防ぐ間もなく、重力に押し潰されてしまう。
力が増してるから、魔術の威力も馬鹿にならない。
「……くっ……」
皆倒れて、立っているのはプレセアひとり。そのプレセアも、満身創痍だ。
飛竜の巣の時のように、動かすのもやっとの体を、ひとり引きずり動かす。
彼女を突き動かすのは、怒りだろうか。自らの時間を奪われたこと、多くの命を奪ったこと、仲間を傷つけられたこと、枚挙に暇がない。
そして、その怒りを胸に斧を振り上げた。ロディルを、倒すために。
「……塵と化しなさい!」
斧を振り下ろしてロディルを叩きつけ、
「これで……」
更に飛び上がる。
「終わりです!」
その勢いのままに斧を地面に叩きつければ、巨大な力が地から湧き上がる。
「緋焔、滅焦陣!」
最後の力を振り絞って放たれた力は、ロディルを倒すには十分すぎるほどのものだった。
「……時間は戻らない……」
それが自然の摂理。
奪った者を倒しても、戻ってこない。プレセアはひとり俯いた。