無力さ
ゲートから出た先の部屋から、管制室の内部が見える。ボータたちが作業している傍ら、海水が入り込んできていた。
「大変だ! あそこのドアを開けてやらないと」
ロイドが扉を開けようと手をかけるも、びくともしない。
「だめだ! 開かないよ!」
「どけ!」
リーガルが窓を破ろうと蹴りを入れるも、その頑丈さと、先ほどの戦いで満身創痍であったことが災いして、破れそうにない。
「ボータたちだわ。水が来ることを知っていてわざと鍵を掛けたのよ」
「どうしてですか!」
「扉が開けばここにも水が押し寄せてくる。ここは見れば分かる通り、天がドーム状に覆われているわ。水の逃げ場がないのよ」
今この部屋まで水が来たら、ここにいる皆も水に飲み込まれてしまう。
「……私たちを……助けるため?」
「そんなのだめ! 何とかできないの!?」
自分たちのために誰かが命を落とす。そんな、背負う命がいたずらに増えるなんて耐えられない。
「しいな、何とかできない?」
「ダメだ、さっきの戦いで、精霊を呼べるような力は残っちゃいないよ」
「……もう、手がないんだね。ここの鍵は管制室の操作で開くから、ここからじゃもう、何も……」
何かしたくても、何も出来ない。レイラは悔しさがこみ上げてくる。
「くそっ! 見ているだけなのか……!」
管制室が、水で満たされていくさまを、ただ見ているしかない。あまりにもな状況にロイドは歯を食い縛る。
『自爆装置は停止させた』
ボータの声が、スピーカーを通し聞こえてくる。
「ボータ! あの扉を開けろ! 俺たちで上のドームを破壊すれば……」
『我々の役目は大いなる実りへマナを注ぐために各地の牧場の魔導炉を改造すること。それも、この管制室での作業をもって終了する。お前達には、我らが成功したことをユアン様に伝えて貰わねばならない』
話している間にも、水は高い場所に登ったボータたちの足元までせり上がっている。
「そんなことは自分で伝えろ! いいから扉を開けやがれ!」
ロイドは何としてでも窓を破れないか剣で切ろうとするが、窓はびくともしない。
『真の意味で、世界再生の成功を祈っている。ユアン様のためにも、マーテル様を永遠の眠りに就かせてあげてくれ……』
伝えたいことを伝え、ロイドたちに後を託した彼らは、窓のシャッターを降ろし、その姿を見えなくした。
「だめー!!」
最後に見た彼らの姿は、水が胸元まで上がっても、動じず、ただその時を待つ姿だった。