帰還
「皆さん! ご無事でしたか!」
パルマコスタの総督府に入れば、ニールはほっとしたような顔になる。
「……あ、ああ。何とか……」
ミトスがいなければ皆命を落としていたところ。手放しに無事とは言えなかった。
「ニールさん、ごめんなさい。ボク、勝手に抜け出して……」
「よかった! 心配してたんですよ。無事ならいいんです」
ニールはミトスを叱るでもなく、ただその無事に安心したような顔を見せただけだけだ。
「パルマコスタ牧場の方は復活してる様子はなかったわ。安心して」
「そうですか! ……何よりです。
所で皆さんはこれからどうするのですか?」
目先の心配が片付いたことで、ニールは安心しきった様子だ。
「とりあえず世界再生の旅を……。な? コレット?」
「は、はい。えっと……頑張ってます」
「はい! 期待しています、神子様!」
言葉を詰まらせるコレットに気付く様子もなく、ニールはにこにこと笑顔を向けた。
「そうだ、ミトスに笛を返さないと……」
懐から笛を取り出したジーニアスだが、声を上げる。
「あ!」
「……! 壊れてる……」
笛を見てミトスは目を見開く。
「ご、ごめん! 大切なものだったのに!」
「…………」
一瞬、ミトスの表情が淀んだ気がした。
「ううん、大丈夫」
が、すぐにいつもの控えめな笑顔を見せる。
「笛が壊れてしまっても姉さまとの思い出が壊れてしまったわけじゃないから」
「ミトス、すまない。俺で直せるなら……」
「ううん。もうかなり古いものだったからいいんです。ありがとう」
ロイドの申し出を断るミトス。笛そのものを手放し難いように握りしめている。
「ねぇ、ミトス。この笛には何か特別な力でもあるの?」
「……さ、さあ? でも姉さまが、遥か昔に絶滅してしまった木の実から作られていると言っていました」
「うーん。絶滅した木の実か……」
「今まで絶滅した種なんて、いっぱいあるからね……」
レイラは種を特定できないか思い浮かべるが、絶滅した木など、いくらでもある。それだけでは何から作られているのかなど、特定は難しいだろう。
「後で参考になるかもしれないわ。覚えておきましょう」
今、この話を続けても分からないものは分からないだろう。
「んじゃ、この後どうする?」
「ボータさんのこと、ユアンさんに伝えないと」
ボータの伝言を、ユアンに届けなくてはならない。
「…………」
ミトスはひとり、表情を暗くし俯いていたが、誰も気付かぬまま話は続く。
「そうだな。ミトスをテセアラに返すためにも、レアバードが使えるか確認しなきゃいけないしな」
「では、レネゲードたちの居場所へ向かおうか」
「……ええ、そうですね」
ミトスの顔が、心なしか先ほどより不穏さを感じさせるものになっていた。