火の精霊
当面の問題は解決し、精霊の契約に専念できるようになった。
レネゲードの助力を得たことで2つの世界を行き来できるようになり、マナの楔を抜く目標も達成に近付いている。
まずは、シルヴァラント、旧トリエット跡に再び訪れた。
「契約の資格を持つ者よ。我、ミトスと契約する者」
厳格さを備える火の精霊、イフリート。彼が現れた途端に空気がいっそう熱く感じるのは流石だ。
「我はしいな。イフリートとの契約を望む者。ミトスとの契約を破棄し、我と契約することを望む」
「我と契約できるだけの資質があるのか、それを試させて貰おう」
もう何度も精霊と戦い、契約を結んだが、それでも彼らが強力なことは変わりない。イフリートも流石の強さでこちらを迎え撃ってくる。
精霊はこちらを試すために戦っている。だから手の内は明かさなくては。
「……行きましょう!」
リーガルに合わせて、レイラは氷の術を放つ。
「氷爪襲落!」
その体に氷を纏わせたまま、リーガルは空中から落下して蹴りをお見舞する。
見事、イフリートに打ち勝てたようだ。
「……その力、驚嘆に値する。よかろう。そなたの誓いを我に示せ」
「2つの世界が、お互いを犠牲にしなくてもいい世界を作るために、その力を貸してくれ!」
「我の猛る炎を、そなたに貸し与えよう」
イフリートが誓いに賛同し、契約が成立した。と、共に、別な精霊が姿を現す。
「……セルシウス……久しいな」
悠然としたままのイフリートの対して、セルシウスは露骨に顔を顰める。
「……な、何故お前がここに!」
「互いに相容れぬとはいえ、我をそうも避けるか」
「仕方が無かろう。私たちは互いを害する存在だ」
氷と火、どちらも共存できないが故の彼らの関係性なのだろう。
「では、我らのマナが分断されたことは喜ぶべきことか」
「……分からぬな。世界を揺るがせる事態であることは確かだ」
「ふむ……その通りだ」
かつてウンディーネとヴォルトのマナが分断された時も、このことで世界に何が起こるのか彼らには分からない様子だったと聞いている。それは同じことなのだろう。
「後はこの契約者たちに任せるしかない」
「そうだな。我ら相反する存在はお前たちに全てを託す」
イフリートはそれを告げると共に、契約の証としてしいなの手に収まる。
マナの分断を見届けて、ロイドは声を上げる。
「よーし、計画どーり!」
「でもよ。2つの世界が切り離されたら、俺さまたち、もう会えないんじゃねぇの?」
ゼロスが疑問を口にすると、ロイドは首を傾げた。
「何で? レアバードで行き来すればいいんじゃん」
「今はマナの流れによって繋がっているからレアバードで移動できるけれど、世界が切り離されても、同じとは限らないわね」
「すると……マナを切り離した瞬間、2つの世界は永遠の別れを迎えることになるやもしれぬのだな」
リフィルとリーガルの仮説を聞き、コレットが目を伏せた。
「最後の精霊と契約する時が、みんなとのお別れってことなの?」
「……しんみりするなよ! まだそうとは決まってないだろ?」
「……まーな」
ロイドは楽観的に考えているけれど、レイラはやはり気になってしまう。
「どうなるかまだ分からない……分からないこそ、油断できない」
考えうる限りの可能性を考えて、これからの行動を決めなくてはならない。
外に出た途端、大地が大きく揺れる。
「地震だ!」
しばらくすると、収まるが。
「最近多いね……」
「マナの流れを分断したことと関係があるんじゃないかしら。ヴォルトとウンディーネのマナを断ち切った時も、しばらく経ってから地震が起きたわよね」
「世界を切り離すという大事業だ。大地も未知の出来事に対応して地震の1つも起こすのだろう」
マナの流れを断ち切った影響はやはり出ている。この地震がその最たるもの。