信心と偽神子と

アスカを捜すため、シルヴァラント各地を巡っていく。
そんな最中、ルインに立ち寄れば、この短い期間で復興は随分進み、街としての機能を取り戻しつつあった。

教会の方で、何か騒ぎが起きている。見に行くと、思わぬ光景が広がっていた。

「この偽物が!」
「神子様の名を騙るとは不届き者が!」

偽神子の一行が、町の人達に詰め寄られていた。
よりによって神子一行に大恩あるこの街で活動しようとして、ボロを出してしまったのだろう。

「くそ、まずったな」
「あ、あちらを見て!」

偽神子の少女がロイドたちが駆けつけてきたのに気付く。

「神子様! そいつらは神子様の偽物です!」
「よーし、今度は逃さねーぞ」

街人やロイドたちに囲まれて、彼らの退路はない。

「くそ……」

が、そこに、偽物の1人がロイドを押さえつけた。突然のことでロイドもどうしていいか分からず反応できずにいる。

「あ、兄貴……早く逃げろ!」
「クリストファー! お前……俺は一度お前を見捨てたのに……」
「いいから!」
「……馬鹿な奴だね、あんたは。ジュード! コリーナ! ずらかるよ!」
「クリストファー、気を付けてな」

仲間の勇姿を汲んで、彼らは散り散りに逃げていった。
ロイドがとっさに振りほどいて追いかけようとするのを止める一声。

「ロイド! 見逃してあげて」
「あ、ああ……」

コレットに言われて、ロイドは抵抗をやめる。もうコレットの性格はわかりきっている。仕方ないことだ。
男は申し訳なさそうに肩を落としてコレットに向き合う。

「……優しい人……助けてくれたのに、また……こんなことして……ごめん。でも俺は……兄貴の役に立ちたいんだ……」
「……本当に、兄貴さんのためを思うなら、人を騙してお金を取り上げるようなこと、やめさせてあげなくちゃ」

コレットはそれを諭してやる。悪いことだと分かっているなら、それは為にならないと。

「あんた……俺のママみたいなこと言う……。……兄貴のこと……説得してみる」

コレットの言葉が心に響いたのか、男は意を決したように告げて、仲間たちを追いかけていった。

「今度もあいつら、改心しないかもしれないぞ」
「でも改心してくれるかもしれないでしょ」
「……分かったよ。お前本当にお人好しだな……」

自分の名前を使われているのに、微塵も気にせず許す姿勢にロイドは半ば呆れてすらいる。

「……コレットは、あの人たちが根っからの悪い人じゃないって信じてるんだね」
「……そういうところが、コレットだと思うけどよ」

どんな時、どんな相手でも、人の良心を信じる。そういう所がらしいと思うと同時に、少しだけ、危うさも感じてしまう。

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