リンカの木

金色に光る鳥、の言葉だけを頼りにシルヴァラントで調べ続けていると、生物学者のノヴァ博士の家族がそれらしきものを見た、という情報にようやく辿り着けた。
彼らが金色の鳥を見た時の状況をまとめ、何が必要かまとめ上げると、こうだ。

まず、絶滅したとされるリンカの木を見つけること。リンカの木は歩いては行けない場所にあると思われる。
もし見つけたリンカの木が枯れていたらユニコーンの角で強化した癒やしの術を用いること。ただし、生命力がないと折角の癒やしの術も意味を成さないため、エクスフィアの欠片を使うこと。土に栄養がなくては復活しても木を保てないから、地の精霊の力を借りること。
リンカの木から実を採り、笛を作り旋律を奏でること。風の精霊の力で音色を風に乗せること。

これらの複雑な条件を満たしてようやくアスカを見つけ出せる可能性が出てくる。そんな綱渡りのような状況。
しかし、ルナはアスカがいなくては何もできないと言っていた。可能性が薄くても、やるしかなかった。
ユニコーンの角は既にリフィルの手に。エクスフィアの欠片は以前にタバサから余り物を譲り受けていた。必要な精霊たちは契約が済んでいる。できる条件は揃っている。
博士たちが金色の鳥を見たというオサ山道の付近を飛び回り、それらしき木を発見できた。
案の定、土地は痩せて、木は立ち枯れている。とはいえ、見つけ出せただけでも奇跡に近い。

「準備はいいか? 先生、しいな」
「ええ。よくってよ」
「ああ、いつでもいいよ!」

ロイドが欠片を根本に埋め込む。

「よし! 先生、しいな! 頼むぜ!」
「ええ。下がっていて」

ロイドがその場から離れると、しいなが代わりに立つ。

「行くよ! 気高き母なる大地の下僕よ!」

ノームに土を元気にするように頼み、土を栄養で満たす。

「OKだよ。リフィル」
「ええ」

そして、今度はリフィルの番。

「ユニコーンの角よ、私に力を貸して……レイズデッド!」

死の淵の立たされた者を呼び戻す最高の治癒術は、想像以上の効果をもたらし、木は多くの実をつけ、周りの草も彩りを取り戻す。

「わぁ♪ リンカの木が蘇りました〜」
「ほえー! リフィル様、すごいぜ〜」

見事な光景に、周りの面々も浮足立つ。

「ロイド、プレセア。後は任せたわよ」

笛の作成は手先が器用な2人が請け負う。

「分かりました。ロイドさん……」
「ああ……これなんかいいんじゃないか?」

手頃な実を採取する。

「じゃあ、一晩くらいかかると思うけど、ちょっと待っててくれ」
「ええ」

一晩、この場で野営だ。

ランタンの灯りを頼りに作業するロイドとプレセアを傍目に、レイラは未だ燻った気持ちを抱え続けていた。
残るはあと1つ、目的を果たせるその一歩手前まで来てるというのに、世界を救えるという感覚が全くしない。
シルヴァラントの旅の終わりに抱えた気持ちとは似ているようで全く違う。あの時はコレットの身に降りかかる不条理に対して嘆いてはいたが、シルヴァラントを救える、救わなければならないという気持ちは確かに持っていた。
では、今の気持ちは何だろう。
誰も傷つかずに世界を救えるのだから、何も案ずることはない。ない筈なのに、どうして、胸騒ぎは止まらないのだろう。

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