望むままに
「で、レイラちゃんはてっきりロイド君たちと一緒にキャンプすると思ったのに、なーに俺さまに付いてきちゃってるわけ?」
「……何となく?」
レイラがどうするかなんて、とっくに決まっている。ならば、ロイドとコレットと共に結論を待てばいいのに、どういうわけかゼロスにくっついてメルトキオに来ていた。
強いて言うなら、
「あなたと一緒にいたい、って言っても、信じないしね?」
ぽつりと呟いた言葉は、向こうには聞こえてない。
ゼロスはきっと、ロイドたちへの監視を続ける必要もあるから、残らないだろう。これが別れというわけではないけど、こうして一緒にいられる機会はこんな時でもないと来ない。
「私はゼロスがどうしようと構わないから、気にせず過ごして」
これから何をしても構わない。そう、クルシスに与したままでも別に構わない。
そこまで含めて、ゼロスはゼロスのやりたいように生きてほしいという思いは、果たして伝わるか。
「……家に帰らないの?」
「いいっていいって。あの家にいたって仕方ねえしよ」
宿を取ろうとするゼロスに疑問符が浮かび上がる。てっきり家に帰るものと思っていた。
街を練り歩きながら、互いに話し続ける。
「俺さまがいなくなって悲しむやつなんていねえしよ。いたとしても、それは“俺”じゃなくて、“神子”に対してだ」
「……そっか」
どうして、神子というのはいつもそうなのだろう。誰もが神子を崇めているけど、当の本人は自分自身を見られないことに苦悩している。
そのくせして、自分から、自分自身を見てくれる手を離してしまう。
「でも、誰も悲しまないことと、いなくなりたいって思うことは、別だと思う」
かつてのレイラも、自分がいなくても誰も悲しまない、と思っていた。でも、それでも、誰も悲しまなくても、死にたくないって、はっきり思った。自分が見たかったものを見れないまま死ぬのは嫌だと。
「俺にそんな自由なんざ……いや」
ゼロスは自由、という言葉に何か思い当たったようだ。
「コレットちゃんが言ってたな。心は自由だって。だから、体が奪われても大丈夫だと」
「コレットが……」
コレットは誰かに言われたから、体が奪われることを良しとしたわけではない。ロイドを見て、人々を見て、彼らの幸せを、彼女自身が、誰に言われるわけでもなく望んだから。
そう、自分で望んだから、使命を果たそうとした。
「……望むままに生きることが、自由に生きてるってことなら、私、あなたの望みを知りたい。叶える手助けをしたい」
ゼロスがぴたり、と足を止める。
「……それは、俺が今ここで死ねと言えば、お前は死ぬってか?」
「何のために、あなたにあの剣を預けたと思っているの?」
どうやら、本気と思われていないらしい。心外だ。
あの短剣は、レイラの身を守る盾代わり。それを預けた意味を。ただの短剣でも、そこに生半可ではない覚悟を込めている。
「別に今じゃなくてもいい。あなたがいいって思った時に、あなたの望みを教えてくれたらいいから」
望まないのに無理に聞き出すのでは本末転倒だ。彼が自分でそう思ってもらわなくては。
「……なら、その時が来たらな」
言外に、そんな時が来るわけない、という嘲笑が聞こえてくるようだった。