魔導砲

海底に沈んでいた魔導砲が浮上する。
中で準備を整えていたしいなは、合図を受け、構えた。

「蒼ざめし永久氷結の使徒よ」

氷の精霊セルシウスが、

「威き神が振るう紫電の槌よ」

雷の精霊ヴォルトが、

「気高き母なる大地の下僕よ」

地の精霊ノームが、

「大いなる暗黒の淵より出し者よ」

闇の精霊シャドウが、

「契約者の名において命ず。我が前に連なり、陰の力と化せ!」

精霊たちが召喚される。

「よし、頼むよ、みんな!」

精霊たちが魔導砲へマナを込める。
充填が終わる。しいなは指差し、号令をかける。

「魔導砲発射!」


精霊たちのマナが強大な砲撃となり、今も暴走し唸る大樹へ撃ち出される。
陰と陽のマナがぶつかり、叫び声のような甲高い音を立て、砕け散った。
大樹が霧散し、何事もなかったように、静寂が漂う。
これで、大地の死は免れた。

「今の泣き声は……?」
「マーテルだろう。暴走した大いなる実りはマーテルそのものだ」
「……そうなのかな……」

ジーニアスは、あの声に何か感ずるものがある様子だ。
無事、大いなる実りは元に戻り、大地も、大いなる実りも、マーテルも無事なようだ。
マーテルが無事なことに、ユアンは残念がっていたが。これで、元の木阿弥だ。

「……コレット。何とか収まったみたいだぜ」

無事に作戦が完遂されたことを告げるが、コレットはそれどころではなかった。

「こんなの気持ち悪いよね? ……こんなの変だよね? ……こんな……こんなの……」

見られたことに強いショックを受けて、引きつった顔で、嫌悪を露わにする。
ロイドはそれを否定する。

「気持ち悪くなんてないよ」

驚きはしても、ロイドは決してコレットを嫌悪しない。

「……来ないで! 見ないで!」

ふらりと、よろめいてそのままコレットは倒れてしまった。

「コレット!」

ロイドがコレットを抱き起こす。
レイラはそのままでは辛いだろうと、自分の上着をコレットに羽織らせてやる。

「……大丈夫。気を失っているだけよ。村へ……連れていきましょう」

リフィルの提案にジーニアスが驚く。

「イセリアへ!? ボクもロイドも追放されてるんだよ!」
「コレットの家はイセリアにあるのよ。それに……牧場に収容されていた人たちをここに置いてくわけにはいかないわ」
「……そうだな。イセリアへ……行こう」

今のコレットに必要なのは、安息だ。それに、皆も疲れている。落ち着ける場所へ向かわねばならない。

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