和解

学校の前に、人々が集まっていた。牧場の人たちを一旦学校に置いているためなのか。
村の状況に、憤る者がひとり。

「全くけしからん! 追放した者が勝手に村に戻り、神子は盛大に失敗して、これじゃあ世界は終わりじゃ!」

憤っていたのは村長だった。

「相変わらずそんなこと言ってる」

村を出たときから変わっていない様子にジーニアスは呆れるが、村長はジーニアスを指差しまた喚く。

「……おまけにエルフと思っていた連中はハーフエルフだと!? 大方村を襲ったディザイアンを手引きしたのも、お前だろう」
「な……何だと!」

謂れのないことを告げられて、ジーニアスは怒る。

「村長! こんな子供に……」
「子供だろうが何だろうがハーフエルフには変わりない!」

見かねた村人が諌めても、村長は止まらない。

「あのなー! さっきから黙って聞いてりゃ勝手なことばかり言いやがって! 先生もジーニアスも確かにハーフエルフだけど……だから何なんだ! ハーフエルフにだっていい奴がいれば、人間にだって悪い奴はいるだろ!」
「ふん! 子供が何を言うか。お前のようなドワーフに育てられた奴が神子の旅に付いていったのが失敗の原因だ。薄汚い収容人まで連れてきおって……! ああ、全く、よくも善良なわしら人間を酷い目に遭わせてくれた……」
「私たちだけならともかく、牧場の人はそれこそ関係ないでしょう!」
「お前もだ、お前のような得体の知れない気味の悪い奴がいたからわしらはおちおちしてられなかったんだぞ!」

ああ言ってはこう。そんな村長の様子に、冷ややかな目を向けるものがひとり。

「……な……何だ」
「いい加減にして! 何から何まで文句を付けて! あんた、口以外はまともに動かないんじゃないの!」

ショコラが、パルマコスタでディザイアン相手にしていたように、村長に対して強く言葉をぶつけた。

「ショコラ……」
「おー! よく言った! そろそろ俺さまも我慢の限界だったぜ」
「……生まれや育ちや……その人にとってどうにもならないことを挙げ連ねて、傷付ける……。あなたこそ……人では……ないです」
「何を言うか! ここはディザイアンとの協定を結んでいるのだぞ! わしには村を守る義務がある。そうだろう、みんな!」

村長は村人にも、自分の正当性を主張するが、誰一人として黙ったままだ。

「…………」
「何とか言わんか!」

村人たちが、口を開く。

「ジーニアスは村で一番頭がいいんだよ。村長さんが知らない、いんすうぶんかいってのも知ってるんだよ」
「リフィル先生は起こると怖いけど、でも答えが分かると一緒に喜んでくれるの」
「ロイドはお勉強はできないけど、村で一番強いよ。ボク、魔物に襲われた時助けてもらったもん」
「コレットはねー、いつも転んでばっかりなの。でもね、泣かないの。痛くても泣かないの。コレットは偉いの」
「レイラはがんばりやさんだよ。みんなが何やってても、何言ってても、めげないでずっとお勉強や剣の練習してるの」
「……みんな……」

口々にみんなの良いところを挙げていく子供たちの言葉を聞いて、リフィルが我慢できずにその場から駆け出した。

「姉さん……」

ちらりと見えたその瞳は、潤んでいたような気がする。

「う、うるさい! 子供はあっちに行きなさい!」
「子供の方がよっぽど素直な目で神子様たちを見てるじゃないの! あんたは何なの! あんただけじゃないわ! みんな神子様やロイドたちにばっかり責任を押し付けて! あんたたちは何をしたの? 何もしなかったじゃない!」
「我々には力がない……」

何もできない。村長がそう主張すると、村人が声を上げる。

「……そうさ。でも力がなくても、疲れて帰ってきた神子様たちを助けてあげることぐらいできる」
「村長……あんたの言葉は子供にも見抜かれるほど底が浅いよ」
「自分に力がないからって神子様に何もかも押し付けといて、いざとなったら神子様を責めるのかい? それはあんまりさ!」
「フォシテスは死んだわ。もうこの村の制約は何もない筈よ」
「あたしたちは、神子様たちと牧場の人たちを受け入れる。村長、あんたに四の五の言わせないよ」
「そうだそうだ!」

村人たちの言葉に、かえって戸惑ってしまう。

「……みんな……いいのか」
「ボク……ハーフエルフだよ……」
「でもあんたはこの村で育ったんじゃないか。それにロイドも……この村の一員みたいなもんさ」
「レイラもね。3年もいれば、村の一員にはもう充分だよ」
「……ありがとう。みんな」
「……く。勝手にしろ!」

立場のなくなった村長が逃げるように家に篭ってしまった。
ショコラがおずおずと、頭を下げる。

「……私もごめんなさい」
「え?」
「助けてもらったのに……ずっと素直になれなかった。私……牧場で聞いたの。あなたたちがおばあちゃんに優しくしてくれたこと。……ありがとう」
「ううん。よかった……」
「俺、マーブルさんのこと忘れないよ。……一生忘れない」

お互いに、きちんと事情を理解しあって、ようやく和解できた。

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