真心と偽神子と

ダイクの家で一晩過ごしてから、また旅立つ。
すぐにでもアルテスタの元へコレットを診せたかったが、シルヴァラントの様子が気になり各地を見て回った。
どこも大なり小なり被害を被っていたが、一番酷いのはパスマコスタだった。大地震と、それに伴う津波。町そのものが壊滅して、機能を失ってしまった。
そして、その責任はコレットへ押し付けられた。

「あんたのせいだ!」

アスカードに立ち寄った際、コレットの顔を見た町人が罵声を飛ばす。

「あんたが世界再生に失敗したってきいた。だからパルマコスタに仕事に行ってた父ちゃんが死んじゃったんだ」
「そうさ。うちの人はパルマコスタの港で働いてた。あんたのせいであの人が……」
「何が神子だ! 世界を再生するどころか、世界中が滅びようとしてるじゃないか!」

次々浴びせられる罵声に、コレットが俯いてしまう。

「……ごめんなさい」

否定はできない。この事態を引き起こしたのは自分たちだから。

「ごめんで済むもんか!」

謝罪するコレットに逆に激昂した町人がコレットを突き飛ばす。

「きゃ……」
「やめろ!」

流石にこれは黙ってられない。だが、町人は聞く耳を持たない。

「うるさい! 救いの塔は消えちまった! 俺たちは終わりなんだ……!」

そこに、割って入る集団が。

「や、やめろ……っ!」
「あなたは……」

意外なことに、それは偽神子の一行だった。
コレットを責める人たちに対し呆れたように反論していく。

「おいおい。こいつはちょっと酷いんじゃねーか?」
「確かに世界中はぐちゃぐちゃさ。でもねぇ、神子の再生の旅は絶対じゃない。今まで何度も失敗してるんだよ」
「しかし、こいつらは神子として偉そうに……」
「偉そうに旅をしていたのは私たち偽物ですわ。彼女たちは、別にあなた方から何かを巻き上げたり、神子として祀り上げろなんて要求していませんことよ」

彼らはコレットの正当性を説いていく。

「でも父ちゃんが死んだ!」
「俺のパパもママもディ、ディザイアンに殺された。この人たち、ディザイアンを……倒してくれた……」
「神子のやり方に文句があるなら、自分たちでも何かやったらどうなんだい? 自分たちの世界だろう? 自分たちで守らなくちゃねぇ……」

まるでショコラやイセリアの人のように、何もせず責任だけ押し付けることを悪しとして、できることをしようと説いていく。

「……俺たちに何ができるってんだ!」
「さあな。でもまだ世界は滅びちゃいない。自分にできることを捜したらどうだ?」
「じゃあ、お前は何ができるんだ」
「俺は、世界を救える可能性がある人を俺なりに応援するさ」

実際に、今やっているように、彼らはコレットを庇ってくれた。まだ、希望を託してくれているのだ。
コレットは立ち上がり、人々に向き合う。

「私……、私が力不足でした。だから今度こそ、この世界を救うために精一杯頑張ります。そして世界が救われたら、その時は必ずみなさんの裁きを受けます。ですから、もう少しだけ……私に時間をください」
「……世界を……救ってよ……」

町人はそれだけ言い残して、離れていった。

「ごめんなさい。私のために……」
「あんた……前、俺を助けてくれた……」
「そうだ。こいつはクリストファーを助けてくれたあんたへのお礼だ」
「あたしたちはあんたの名前で随分いい思いをさせてもらったからねぇ」

助けてもらった恩義がある。そして、いい思いだけして都合が悪くなれば逃げるのは不義理だということだと。
コレットの受ける期待を浴びて理解していた少女が、コレットに発破をかける。

「本物の神子なんでしょう? この世界、救ってくださらないと許しませんわよ」
「……はい。必ず!」
「俺たちはハイマの辺りにいる。何か力になれることがあったらいつでも声をかけてくれ」
「あはは、ジュード。あんたガラにも無いこと言うねぇ。まあいいさ。行くよ、みんな」

去っていく偽神子一行。クリストファーは残り、コレットに声をかけた。

「俺……俺……」
「何ですか? えっと、お名前は……」
「俺……クリストファー。俺、その小さい子の偽物やってた」
「……やっぱり……ボクだったの……酷いよ〜」

偽神子一行は微妙ながら特徴などを本物に似せていたが、このうだつの上がらない男がジーニアスの偽物、ということにジーニアスは複雑そうだ。

「俺、謝る。ごめん。それに……あんた……」
「コレットだよ」
「コレット……。綺麗な名前……。俺……応援してる。がんばれ」
「ありがとう。クリストファーさん」

クリストファーはコレットと話せて、嬉しかったのか顔を赤くさせながら去って行った。

「あいつら、改心してくれたみたいでよかったな」
「うん!」

改心すると信じて、説得して見逃した。その努力が実を結び、コレットを助けてくれた。
この先、コレットには多くの受難が待っているだろう。だが、信じてくれる人はまだいる。それは、この先の旅においてもとても心強いことだ。

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